


厚労省による遺骨収集事業の取り違えや混入は今回が初めてではない。過去にはフィリピンやミャンマーでも起こっている。なぜ同じ過ちを繰り返すのか。AERA 2019年12月9日号から。
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厚労省の事なかれ主義や隠蔽体質が簡単に改善されるわけもないことは、9年前にフィリピンでの遺骨混入疑惑を最初に報じた記者としてよくわかる。収骨作業を委託したNPO法人に丸投げし、現地住民の宣誓供述書に基づいただけの骨をかき集めて収集数をV字回復させたものの、疑惑報道により8年もの間、フィリピンでは事業中止に追い込まれた。そして、国内の3研究機関で計311体分を鑑定し、日本人とみられる骨が皆無だったにもかかわらず、やはり報道されるまで全く公表しなかった。厚労省は同じように息を潜めていただけのことだ。
異国の地で戦った末に亡くなり、骨として故郷で待つ家族と再会することも叶(かな)わず、あまつさえ取り違えられた現地人の骨が「日本人」として東京・千鳥ケ淵の戦没者墓苑に埋葬される理不尽さ。翻って現地で手厚く葬られていたのに、掘り返されて鑑定もされずに異国で「日本人」の「英霊」として祭り上げられた人たちの無念さ。こうした事態が役所の不作為で繰り返されていたとしたら、人道にもとるとしか言いようがない。
JYMA日本青年遺骨収集団理事長の赤木衛さん(55)は憤慨する。
「彼らは実際に収集活動をしてきた我々にすら情報を開示しない。参加者から、『明らかに子どもの骨をご遺骨として袋に入れ、焼骨してしまった』と報告があったので、厚労省に抗議し、帰国後も担当者に問いただしたのに、全く響かない。今回のシベリアの597体だって氷山の一角でしょう。焼いてしまった検体ではDNA鑑定もできないのに、彼らはせっせと現地での焼骨を続けている。証拠隠滅であり、インチキです」
長年、政府派遣の収集事業の中核として活躍してきたJYMAは、このシベリアの取り違え問題を機に、焼骨を行う限り、政府派遣には人員を提供しないことを決定した。赤木さんは、同省が今年5月に設置した「戦没者の遺骨収集の推進に関する検討会議」でも、委員としてDNA鑑定の重要性を説き、一度は原則焼骨中止に議論が傾いた。しかし、7月25日の第4回会議で日本遺族会から参加していた委員が「収集した御遺骨は荼毘(だび)に付し、懇(ねんご)ろに慰霊、追悼し、祖国に持ち帰るという崇高な使命を持っている。英霊・遺族の心情も同じであると拝察をしております」などと発言。結果的に同省がまとめた中間報告の「今後の方向性」では、「現地で焼骨をせずに、日本でDNA抽出の後に焼骨することも選択肢となるが、厚生労働省は、本とりまとめを踏まえ、遺族感情に配慮し、制度面や技術面の課題を整理し、遺族等関係者の理解を得つつ慎重に進めていくべき」と大幅にトーンダウンした。