書類のタイトルは「復権証明書」。もっとも不便を感じているアメリカなどへの渡航制限が解除されるかは、まだわからない(撮影/写真部・張溢文)
書類のタイトルは「復権証明書」。もっとも不便を感じているアメリカなどへの渡航制限が解除されるかは、まだわからない(撮影/写真部・張溢文)
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11月上旬の金曜日、東京地検に証明書を取りに行った。5年前、留置場から移動させられたのも金曜日だった(写真部・小山幸佑)
11月上旬の金曜日、東京地検に証明書を取りに行った。5年前、留置場から移動させられたのも金曜日だった(写真部・小山幸佑)
AERA 2019年12月2日号より
AERA 2019年12月2日号より

「即位礼正殿の儀」に合わせて実施された恩赦の対象者は、全国に約55万人いるという。作家の北原みのりさんもその一人だ。自身の体験をAERA 2019年12月2日号に寄稿した。

【これまでに実施された11回の恩赦がこちら】

*  *  *

 スマホで新聞を読んでいたら天皇即位の礼に伴い、「政令恩赦」が実施されるという記事が流れてきた。対象となるのは罰金を納めてから3年以上5年未満の者で、全国に約55万人いるという。記事を読みなおし、ぼんやりと思う。

 これが文字通りの事実ならば、私は恩赦対象だ。

 2014年12月3日、私は猥褻物公然陳列罪で逮捕され、3日間の勾留の後、略式裁判で有罪判決を受け、罰金30万円を払った。もうすぐ5年が経つが、まさか「恩赦」という形で、事件が蘇ってくるとは思わなかった。いったい恩赦によって何が変わるのか。本当に該当しているのか。確かめたい思いで10月23日、法務省に電話をした。

 大代表の受け付けに「恩赦の件で」と言ってみる。「お待ち下さい」とすぐ担当部署につないでくれたことからすると、この件の問い合わせは少なくないのだろう。出た男性に「恩赦の対象かどうか確認したい」と伝えると、慣れた調子で「そういう個別のことは検察に連絡して下さい。東京なら、東京地検(東京地方検察庁)に連絡して下さい」と言われた。

 地検の電話は混み合っていて、4度目でつながった。同じように自分が対象かを知りたいと言うと、電話口の女性が、てきぱきとした調子で、名前、住所、生年月日、電話番号、罪名、裁判の日、罰金を払った日を聞いてきた。一通り答えた後に言われたのは、

「あなたの言うことが事実ならば、恩赦の対象になっている可能性は高いですが、こちらで調査し、改めて電話か郵送でご連絡します」

 とのことだった。

“あなたの言うことが事実ならば”という、もってまわった慎重な役人らしい言い回しに、胃がキュッとなる。取り調べを受けていた日々の記憶と重なったのだと思う。

 私が逮捕されたのは5年前の12月3日だった。経緯はこうだ。私の会社でアルバイトをしていた女性が、その年の夏に逮捕された。彼女のつくった女性器をモチーフとした作品を会社のショールームに飾ったことで、警察から私に出頭要請が何度かあった。警察を無視するとやっかいなことになると身をもって知るのだが、この時は彼女を担当していた女性の弁護士から「私たちは徹底的に闘うので、警察は無視して下さい」と言われ鵜呑みにしてしまった。

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