どんなジャンルでも研究者たちの探究心と情熱で切り拓かれてきた。もちろんマイナー分野でもそれは同じだ。ライター・福光恵氏が鳥類学者の2人から知られざる研究の世界をレポートした。AERA 2019年10月14日号から。
* * *
「この木のこのへんに、黒い巣があるのが見えますよね?」
東京大学総合研究博物館に勤務し、カラスの生態、行動、進化などを研究テーマとしている松原始さん(50)は、そう言って画面の中の森の写真を指さした。
はい。素人には、まーったく見えません。実はこれがカラスの巣らしい。専門家になると、電車のなかから遠目に森を眺めつつ、カラスの巣を確認できるようになるそうだ。
松原さんも、研究対象と運命で引き合わされた「赤い糸派」のひとりだ。カラスに興味を持ったのは、小学校に入学する前。カアカアと鳴くカラスに、試しにカアカアと口まねをしてみたところ、カアカアと返事があったのがきっかけだった。
今でこそ、カラスだけの研究をしている鳥類学者はいるが、松原さんが研究者になった当時は、ほかにライバルがいないブルーオーシャン状態。そんな独壇場で、これまでさまざまな発見もした。例えば、森にすむハシブトカラスの生態。
「街にすむカラスのことはよく知られていますが、実はもともと森にもカラスはすんでいて、それも針葉樹の植林に多くすんでいることを発見しました」
今も週末は全国の森に出かけ、カラスを観察するのが主たる活動内容。とはいえ、先輩研究者もいないマイナージャンル。最初は森にカラスの巣を見つけることさえ、簡単ではなかったという。
「森には刺激がないので、カラスはいたって静かなんです。諦めて帰ろうとすると、後ろで静かに立っていることもあった(笑)。森に足を運び、3年目にようやく巣を見つけました」
研究費用は、旅費、カメラ、ドローンなど。クラウドファンディングで「約7万円」集めたことはあるが、基本は「自腹」でまかなう。