騒音対策について、国には騒音が一定以上の住宅を対象にした防音工事の補助制度はあるが、新飛行ルートで適用されるのは羽田空港のごく周辺。ほとんどの地域が基準を下回り対象にならない。学校や病院、保育施設などは、基準を満たすか調査中だという。

 落下物の心配もある。

 まずは氷。16年度までの10年間で成田付近では19件の落下物が確認されているが、そのうち氷塊は6件。機体に付着したものが着陸時の脚下げの衝撃で落下するが、高度から落ちるため、車にぶつかれば車体に穴が開き、人に当たれば殺傷能力もあるという。

 落下物について国は今年1月から国内の航空会社、3月には外国の航空会社に対策を義務付けた。だが、先の杉江さんは、義務化の効果はあまり期待できないと言う。

「いま整備士の数が世界的に足りず整備が追い付いていない。ヒューマンエラーによる事故がたびたび起きています」

 国交省によれば、17年度に起きたヒューマンファクター(エラー)は355件と、5年前の116件から3倍以上になった。「落下物の中でも、エンジントラブル時の被害は非常に大きい。そもそも氷の落下については防ぎようがない」(杉江さん)

 さらなる心配は、飛行機の全損事故だ。最近はハイテク機ならではの問題点があると杉江さんは言い、こう続ける。

「今の飛行機は完全にデジタル化されてしまったため、パイロットがボタンを一つ押し間違えると、急降下して最悪の場合は墜落することがある。あってはならないヒューマンエラーが増えている。一歩間違えれば、住宅密集地に墜落しても不思議ではない事故が起こりうる」

 問題はまだある。不動産価格への影響だ。不動産コンサルティング会社「さくら事務所」(東京)の長嶋修会長によれば、海外の事例をケースに算出した結果、新飛行ルートによる騒音で代官山(渋谷区)や白金(港区)あたりの不動産価格は最大25%、大井町駅(品川区)周辺では最大26%価格が下落する可能性があると指摘する。

「1億円の高級マンションは7500万円、3億円の高級住宅は2億2500万円程度になる計算。タワーマンションの高層階で、サッシの防音等級がそれほど高くない場合には、下落率は高まるかもしれない」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年8月12・19日合併増大号より抜粋

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