新たな高度案について元日本航空機長で航空評論家の杉江弘さんは、危険性を指摘する。

「新たな高度案は新宿から大井町までの約10キロを、今より90メートル多く降下することになる。角度に直すと約0.5度に相当するが、これくらいの角度でもパイロットにとっては多大なプレッシャーになる。羽田はパイロットにとって世界で最も難しい空港となり、しりもち事故など重大事故が多発することになりかねない」

 運用は今のところ、国際線が混雑する午後3~7時に限られている。国交省は伊丹空港(大阪)や福岡空港ではすでに市街地上空を飛行機が低空で飛んでいるので、都心上空を飛行しても問題ないと強調する。

 しかし、杉江さんは、

「時代に逆行する非文明的な発想だ」

 と厳しく批判する。いま世界のハブ空港は、環境への影響や安全性を考え、人口密集地や都心から郊外へと移っている。そして空港と都心の間を高速鉄道やリニアモーターカーなどでつなぎ、移動時間を短縮している。

「しかも成田空港は発着時間の延長や第3滑走路の稼働などの機能強化策で、発着数が現在の約1.7倍に広がる見通し。羽田空港を使わなくても成田で十分に対応できます」(杉江さん)

 新ルート開始時期は、東京五輪・パラリンピックに間に合うよう、夏ダイヤに切り替わる20年3月29日が想定されている。

 新ルートでの運航が始まった場合、A滑走路進入ルートでは約4分20秒に1回、そしてC滑走路進入ルートでは約2分に1回、何とラッシュ時のJR山手線並みのハイペースで飛行機が低空を通過するのだ。

 懸念されるのが、まず騒音だ。新ルートの真下には、住宅密集地や繁華街、病院や大使館、数多くの小中学校が点在する。さらにC滑走路に進入する飛行ルートのほぼ真下には、上皇ご夫妻が仮住まいされる高輪皇族邸(東京都港区)もある。

 騒音は、新宿付近でセミの鳴き声ほどの約63~70デシベル、渋谷・恵比寿・麻布付近で約68~74デシベル(高速道路走行中の自動車内)、大井埠頭・大井町付近でパチンコ店内にいるような音の約76~80デシベルに達する見込みだ。

 高層ビルになると被害はより深刻だ。たとえば大井町周辺で地上30階前後(約100メートル)にある最上階の部屋は、飛行機との距離はわずか235メートル。ビルをかすめるように飛行機が飛ぶことになる。

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