力強いサウンドがカルカスの真骨頂。ポンチョの裾をひるがえし、ステップを踏んで演奏する宍戸誠(撮影/横関一浩)
力強いサウンドがカルカスの真骨頂。ポンチョの裾をひるがえし、ステップを踏んで演奏する宍戸誠(撮影/横関一浩)
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「フォルクローレ」といえば「コンドルは飛んでいく」と思っていないか。ロス・カルカスとチャランゴ奏者、宍戸誠の奏でる音楽を聴いてほしい。新しい魅力に気づくはずだ。

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 軽快にメロディを奏でる南米の弦楽器チャランゴ、日本でも有名になった葦笛ケーナと、草原を渡る風のような管楽器サンポーニャ。それら民族楽器と力強い歌声が渾然一体となって、聴衆者を雄大なアンデスへと誘う。ボリビアフォルクローレの最高峰、ロス・カルカスが、5年ぶりに日本に「帰って」きた。時に哀愁に満ち、時にパワフルなサウンドに、会場は大いに沸いた。1984年の初来日時も生で聴いたという男性ファン(50)は、仕事の都合をつけ、長野から駆けつけた。

 結成48年を迎えたフォルクローレグループ、ロス・カルカスはボリビア人の誇りだ。ボリビアの伝統的なリズムを音楽に取り入れ、愛や人生を歌うスタイルは、結成当初から現地で大きな反響を呼んだ。70年代に発表した曲「ボリビア」は、第2の国歌としていまも歌い継がれている。そのボリビアの魂ともいえるグループに日本人がいる。チャランゴ奏者の宍戸誠(41)だ。

 宍戸は音楽好きの両親の影響で、子どもの頃から南米音楽にも親しんだ。6歳でチェロを、8歳のとき、来日したカルカスの演奏を聴き、チャランゴをはじめた。音楽学校の作曲科を卒業後、単身ボリビアへ渡り、地元のミュージシャンらとグループを結成。音楽活動に勤しんだ。当時、スペイン語はほとんどできなかったが、日々の暮らしと音楽活動のなかで、少しずつ学んでいった。

 4年目、転機が訪れる。「カルカスを完璧に演奏する日本人」のうわさが、チャランゴ奏者を探していたカルカスのリーダー、ゴンサロ・エルモサ(68)の耳に入ったのだ。テストを受けたが、不合格。ボリビア特有のいくつかのリズムや伝統的な奏法が弱いことが理由だった。

「曲の背景にあるものを、まだ表現できていなかった」(宍戸)

 ボリビアには、土地で生まれたリズムが100種類近くある。たとえば最近のヒット曲「No he nacido para sufrir(苦しむために生まれたわけじゃない)」は、田舎暮らしの貧しい男の人生を、“ワイニョ”というリズムに乗せて歌う。こうしたリズムは、「ボリビアの文化を空気のように吸わなければ、身につかない」(同)。

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