

元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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世の中いろいろ大変なことが起きている中、二週にわたってこんな話題で恐縮ですが、今回もまた梅干しのこと。というのも我が胸に収めておけない嬉しい出来事がありまして、親切なアエラ読者の皆様に聞いていただきたく。
というのはですね、苦節10年、ついに、梅干しのこと好きになったかも……と実感できる出来事が!
きっかけは例の梅干しの作り方の取材を受けた時、参考にしている本を読み返していて、迂闊にもそれまで全く気にとめていなかった記述に気づいたこと。
「梅干しの種をそのまま捨ててはいけません」
なぬ? いや捨ててますけど。っていうか我が家の生ゴミの相当部分を梅干しの種が占めてるんですけど。だって硬いよ。ものすごく。どうやったって食べられない。
「種を割ると、中に仁というものが入っています。これがすごく体にいいから必ず食べるように」
えーっ、そうなの? もちろん早速食べてみた。
いやー………ウ、ウマーーーーイ!
梅干しの種だからしょっぱいんだが、硬い殻で覆われている分、あの暴力的な味とは違う上品な塩味。そしてなんとも言えない甘いナッティな香ばしさ。これはどこかで経験した味である。えーっとなんだっけ……そうだ杏仁豆腐! たった一粒でまごうかたなきあのデザートである。
不思議に思って検索してみたら、実は不思議でもなんでもないのであった。「杏仁」とは「アンズの仁」。アンズと梅の違いはあれど同じ「仁」である。その薬効の高い杏仁を食べやすく加工したのが杏仁豆腐。なるほど似た味がして当然なのであった。私の味覚もなかなかのものであります。えっへん! ということが言いたくて思わず書きました。聞いていただきありがとうございます。
というわけで、近頃は仁目当てに機嫌よく梅干しを食べるようになったのです。めでたしめでたし。やや本末転倒な気もするが。終わりよければすべて良しってことで。
※AERA 2019年7月8日号
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