技術力は確かだ。赤木さんは中学卒業後に名古屋市内のヘアサロンに就職。その後、27歳で独立した当時はカリスマ美容師ブームの黎明期だった。研修で東京の人気美容室に足を運び、流行の髪形は作れるようになったが、心は満足しなかった。

 一方、地元で開業したサロンでは定休日を利用し、高齢者施設などへの訪問理美容を始めた。全く話さなかった認知症のおばあちゃんが、化粧をして、髪を切ると、ケラケラと笑い始めた。こんなに人は変わるんだ──これが赤木さんの原点だ。2007年には美容を通して福祉を考えるNPOふくりびを設立。10年にはがん患者の美容支援を始め、15年には愛知県がんセンター(名古屋市)近くにアピアランスサポートセンターを開設。そうして今年5月、東京にも進出した。赤木さんは言う。

「プロとしての意地がある。絶対に周りからかつらと思われないようにしたい。一瞬でもいいから、がんのことは忘れて、笑顔が見えると嬉しい」

 冒頭の野原さんは、医療用ウィッグに変えるタイミングで真っ黒だった髪を明るくした。「イメチェンしました」という体(てい)で職場に復帰したという。

「髪形を変えることもできて、自分らしさが出せる。病院の一角ではなく、美容室のように通えるのがとても気持ちいい」

 事前に伝えていた上司以外、誰にも気づかれてはいない。それどころか、「前よりいいじゃん」と言う人もいたという。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年12月10日号

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