ここは重い荷物を抱えた人が、ひととき荷物をおろせる場所なのかもしれない。

「そうだといいですよね。私にとって本屋さんは特別な場所。子どもの頃にお金を握りしめて伊勢佐木町(横浜市)の有隣堂まで走って行った。家にも学校にも居場所がなく、そうではない場所は本屋さんしかなかった」

 自宅の台所の横が店舗になっており、常に人の往来がある。そんな生活は柳さんの創作活動にも影響を与えている。

「小説家としても、一人語りではなく、さまざまな生活者の目線で書ける。最近書いたものも、発信しているというより受信している感じです」

裏の倉庫は劇場に改装し、9月にふたば未来学園高校の演劇部が公演する。柳さんは約30年ぶりの演出家復帰だ。移住前には考えもしなかったことが、人の縁で次々と実現していく。

「不思議ですよね。意志を通すというのではなく、積極的に流されているという感覚です」

(編集部・小柳暁子/ライター・北條一浩)

AERA 2018年8月13-20日合併号より抜粋