


おしゃれで、優しそうなおじいちゃん。7月31日、広島市内での初面会時に受けた印象だ。のりの利いた白いシャツの襟元にループタイ、ダンディーなハット姿で現れた坪井直(つぼい・すなお)さん(93)は、当時20歳だった73年前の8月6日、爆心地から1.5キロの地点で直爆し、大やけどを負った。瀕死状態だった。
その様子は、原爆投下3時間後に中国新聞カメラマンの故・松重美人さんによって撮影された1枚の写真に残っている。爆心地から約2.2キロ離れた御幸橋で応急手当てを待つ被爆者の群衆の中に坪井さんがいる。10人以上が写っているが、今も存命なのは坪井さんだけだ。
「シャツに火が付いたまま逃げたんよ。やけどは体中にある。それからというもの、病気も相当やっとる。3回も危篤状態になったんよ。もうダメですから死ぬけ、家族呼びんさいってことが3回もあった。もう10回以上、入院しとる。生きているのが不思議じゃけんの」
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の3人の代表委員の一人であり、広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)の理事長を務める。2016年5月、米国の現職大統領として初めて広島を訪問したオバマ大統領(当時)と、広島市の平和記念公園で、被爆者として最初に握手をして言葉を交わした。
「被爆者としては、そのこと(原爆投下)は人類の間違ったことの一つ。それを乗り越えて我々は未来に行かにゃいけん」
大統領の右手を自分の右手でしっかりと握りしめたまま、必死に訴え続ける坪井さんの言葉を真剣な表情で聞いていたオバマ大統領は、過去を乗り越えて未来を見つめようとする坪井さんに、最後は満面の笑みで「ありがとう」と応じた。
「色々とあったが、それを乗り越えにゃいかんということだから、決して、あなた方に謝罪をしろと言うことは、絶対に言いません。乗り越えんかったら、絶対にダメなんじゃ。肌の色が違っていようと問題じゃない。みんな手を組まにゃいけん。その方が強い。頭の中のさらっとした気持ちをね、オバマさんに伝えました」