AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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■いま観るシネマ
30歳になる前の揺れる女心――。多くの女性が抱える「あるある」な思いが詰まった映画「29歳問題」。キーレン・パン監督(43)が脚本、演出、主演した一人芝居「29+1」を自ら映画化した初監督作品だ。
主人公は美しく、日々努力してキャリアを積み、恋人もいるクリスティ(クリッシー・チャウ)。30歳を前に「上っていた階段から転げ落ち」、全てを失った彼女は、パリへ旅行中のティンロ(ジョイス・チェン)の部屋を借りることに。そこにあったティンロの日記を読むうちに、クリスティは次第に自分自身を取り戻していく。
パン監督はクリスティ同様、美しく聡明で多彩なキャリアの持ち主。彼女が29歳で書いた脚本だけに、てっきり自身の気持ちを描いたのかと思っていた。だが、
「私は当時舞台俳優でした。毎日劇団に通うのが楽しくて、30歳への恐れはありませんでした(笑)」
パリへの憧れ、部屋を借りる体験などは実体験だが、「もともと興味があった」この年齢の女心を掘り下げたと言う。
監督の転機はむしろアラフォー。舞台劇「29+1」が初演以後高く評価され再演を繰り返し、2013年には観客動員数がのべ4万6千人に上っていた。
「能力が尽き果てたと思いました。舞台を一度打ち止めにすることを決め、自分に問うたんです。本当は『何がやりたいのか』って」
映画化を決めたのはそんな時だ。映画では「観客がより物語を理解しやすいように」(パン監督)、主人公とは体形も性格も異なるもう一人のヒロインを登場させた。何もかも持っているようで幸せに見えないクリスティに対し、ぽっちゃり体形でいつも笑顔のティンロは小さなレコード店で働く。一見対照的な二人だが、映画を見ているうちに、二人は一人、どちらも「私」ではないか。そんな気持ちになってくる。