彭秀慧/1975年、香港生まれ。香港で最も有名な舞台俳優で舞台演出家の一人。「29歳問題」は、2005年に自ら手がけ大成功した一人芝居「29+1」を映画化したもの(撮影/ザジフィルムズ/ポリゴンマジック提供)
彭秀慧/1975年、香港生まれ。香港で最も有名な舞台俳優で舞台演出家の一人。「29歳問題」は、2005年に自ら手がけ大成功した一人芝居「29+1」を映画化したもの(撮影/ザジフィルムズ/ポリゴンマジック提供)
「29歳問題」/対照的な人生を歩む二人のヒロインに共感してしまう人生応援物語。全国順次公開中 (c)2017 China 3D Digital Entertainment Limited
「29歳問題」/対照的な人生を歩む二人のヒロインに共感してしまう人生応援物語。全国順次公開中 (c)2017 China 3D Digital Entertainment Limited

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

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■いま観るシネマ

 30歳になる前の揺れる女心――。多くの女性が抱える「あるある」な思いが詰まった映画「29歳問題」。キーレン・パン監督(43)が脚本、演出、主演した一人芝居「29+1」を自ら映画化した初監督作品だ。

 主人公は美しく、日々努力してキャリアを積み、恋人もいるクリスティ(クリッシー・チャウ)。30歳を前に「上っていた階段から転げ落ち」、全てを失った彼女は、パリへ旅行中のティンロ(ジョイス・チェン)の部屋を借りることに。そこにあったティンロの日記を読むうちに、クリスティは次第に自分自身を取り戻していく。

 パン監督はクリスティ同様、美しく聡明で多彩なキャリアの持ち主。彼女が29歳で書いた脚本だけに、てっきり自身の気持ちを描いたのかと思っていた。だが、

「私は当時舞台俳優でした。毎日劇団に通うのが楽しくて、30歳への恐れはありませんでした(笑)」

 パリへの憧れ、部屋を借りる体験などは実体験だが、「もともと興味があった」この年齢の女心を掘り下げたと言う。

 監督の転機はむしろアラフォー。舞台劇「29+1」が初演以後高く評価され再演を繰り返し、2013年には観客動員数がのべ4万6千人に上っていた。

「能力が尽き果てたと思いました。舞台を一度打ち止めにすることを決め、自分に問うたんです。本当は『何がやりたいのか』って」

 映画化を決めたのはそんな時だ。映画では「観客がより物語を理解しやすいように」(パン監督)、主人公とは体形も性格も異なるもう一人のヒロインを登場させた。何もかも持っているようで幸せに見えないクリスティに対し、ぽっちゃり体形でいつも笑顔のティンロは小さなレコード店で働く。一見対照的な二人だが、映画を見ているうちに、二人は一人、どちらも「私」ではないか。そんな気持ちになってくる。

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