日本映画は世界志向へカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督は、デビュー時から世界を視野に入れていた。集大成ともいえる本作は、日本映画の風向きを変えるだろう。
* * *
自身では否定しているが、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受けた「万引き家族」は、間違いなく是枝裕和監督の現時点での「集大成」である。
祖母の年金と父の万引きで生活する貧しい“3世代家族”の物語。そんな彼らが、親の虐待を受ける少女をこっそり引き取ったことから、“家族”の秘密が徐々に明らかになる……。この作品を見ていると、劇映画デビューして20年余りの間に撮られた是枝作品の数々が走馬灯のようによみがえってくる。
柳楽優弥が母親に遺棄される少年を演じて、カンヌの男優賞を取った「誰も知らない」(2004年)。病院での子どもの取り違え事件を描き、育てた時間と血のつながりの軽重を問うた「そして父になる」(13年)。刑事事件の被告人が観客に訴えかけるような映像が印象に残る「三度目の殺人」(17年)等々。
是枝監督がこれまでに描いてきた多様なモチーフや手法の中から、最良の部分を集めて作られたかのようだ。是枝監督のトレードマークともなった、子どもたちのリアルな演技も堪能できるし、樹木希林やリリー・フランキーら個性豊かな常連俳優の魅力も全開させている。音楽で言うところのベストアルバムをほうふつさせる。これも本人は強く否定するだろうが、パルムドールを取りに行った作品にさえ見えてくる。
ドキュメンタリストだった是枝監督が初めての劇映画「幻の光」を撮ったのが1995年。これはベネチア国際映画祭のコンペ部門に選ばれ、金のオゼッラ賞を得ている。これまで海外で評価された日本人監督は、黒澤明から北野武や宮崎駿まで大勢いるが、是枝監督はデビューする時から海外を意識していた最初の世代だといえる。2年後の97年には、河瀬直美監督が劇映画デビュー作「萌の朱雀」でカンヌのカメラドール(新人監督賞)を得ている。