未婚者にとっては、恋愛や性愛はすでにリスクでしかなくなりつつある。大手企業に勤めるある男性(27)はこう語った。
「社内は絶対嫌です。取引先とか、仕事で絡む人も嫌。趣味のコミュニティーは人間同士のつながりなので、和を乱したくない。恋愛よりも結婚がしたい」
自分から声をかけ、断られたら、こじれたら、別れたら、どう責任をとるのか。恋愛や性愛にはさまざまな「面倒くささ」が付きまとう。リスクしかないものに対して、主体的になれない。不安定な関係で恋愛するより、はやく家庭をつくりたい。
これまで2万人近くの男女の悩みを聞いてきた人材コンサルタントで婚活塾も主宰する川崎貴子さんは言う。
「収入が高い男性も、生活の安定やリスク軽減のため共働きを望んでいる。20代のうちから婚活相談に来る人も増えていて、多くが安心安全な環境を早めに手に入れたいと考えているようです。恋愛や性愛のような、社会のしがらみのある『面倒くさい』ものは、廃れるということかもしれません」
女性ももちろん戸惑っている。20代から40代まで、キャリアを築き経済力を持つ女性が、結婚が必要かどうかも、性愛をどうしたらいいかもわかっていない状態にあるという。
「リスクを取って損をしたくない、という意識は男女両方から強烈に感じます」(川崎さん)
首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さんは、現状を、「致し方ないこと」と分析する。
「恋愛や性愛は、そもそも社会正義の外側にあるものでした」
宮台さんによると、1万年前に定住社会が始まる前、法はなく、仲間意識と生存戦略だけがあった。ところが、定住を支える収穫物(ストック)を管理するため、法ができた。以来社会は法のもと、損得の計算をベースにまわっている。「あなたが世界のすべて」という恋愛観や、「よくわからないけどすごい」という性愛の享楽を肯定しない。秩序と損得を重んじる傾向は近年さらに強くなり、社会は少しの逸脱も認めない方向へ向かいつつあるという。