将棋の藤井聡太六段(15)が新たな歴史をつくった。名人、竜王らを連破し 初優勝した朝日杯将棋オープン戦から見えてくるものは。
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藤井将棋には「華」がある。
朝日杯将棋オープン戦の本戦1、2回戦の名古屋対局、そして東京・有楽町での準決勝、決勝の現場で、そう実感した。
例えば、決勝でA級棋士・広瀬章人八段(31)を相手に放った、飛車で取られる地点にただで桂馬を捨てる手(4四桂)。準々決勝、佐藤天彦名人(30)戦では、左側中段にいた飛車を右側下段に大転換。飛車や角のダイナミックな動きも特徴だ。
プロでさえすぐには気づかない妙手で、かつ「美しい」。つまり、駒の機能が最大限に発揮され、無駄のないフォルムを体現しているのだ。しかも、指された後にその前の手の積み重ねをさかのぼると、一貫した論理、あるいは意志が浮かび上がってくる。
盤上の宇宙の中から最も美しい星を瞬時に見つける。しかも気づくと星座が広がっている、とでもたとえられるだろうか。
藤井将棋の一つの原点には、幼少期から親しんできた「詰将棋」の存在が間違いなくある。創作では、11歳で専門誌「詰将棋パラダイス」に初入選。解くほうでは、一流棋士も参加する「詰将棋解答選手権」で3連覇中だ。
詰将棋は、玉を詰めるパズルで、将棋から生まれたものではあるが、将棋とは別の独立したジャンルだ。作者は初めに駒を自由に配置できるため、現実に対する実験室、あるいは盤という画布の上に描く絵画ともたとえられよう。詰将棋を解くことは将棋の終盤を鍛えるトレーニングになるが、一方で、「美しさ」や「意外性」を追求する芸術性の高い作品を解いたり作ったりするのに夢中になると、将棋がおろそかになるという通念もある。
準決勝・決勝を生放送したCS「テレ朝チャンネル2」に出演した加藤一二三九段(78)は「詰将棋はほどほどにしたほうがいいという考え方がある」と言及。解説の佐藤名人が「でも藤井さんは詰将棋が趣味なんですよね」と返すと、「そうか、趣味をやめさせるのもかわいそうですね」と笑いを誘った。
現代を代表する詰将棋作家の一人で英米文学者の若島正さん(65)は少し違う見方だ。