
地方創生の掛け声から4年。地方の活力を取り戻すのにマニュアルはない。そうした中、人口の「社会増」を実現した自治体がある。住民たちと一緒に悩み、汗をかく……。地方創生の陰には、公務員という「黒子」たちがいた。
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島の夕暮れは、時の流れも緩やかになるようだ。新潟県の沖合に浮かぶ粟島(あわしま)。
夕方4時。寒空のなか学校帰りの子どもたちが5人、馬を飼育する牧場に集まってきた。慣れた手つきで馬小屋を掃除し、ブラシをかけて蹄の裏の汚れを取り払う。その中にいた一人の少女が、馬を丸馬場(まるばば)と呼ばれる白い円形の柵の中に連れて入って追い鞭を振ると、馬は白い雪が降り積もる地面を蹴って少女の周りを走りだした。少女は中学2年だが、2年前に粟島に来た。この少女だけでなく、馬の世話をしていた子どもたちは全員が島外の子、「留学生」たちだ。
「子どもたちは朝まだ真っ暗なうちから牧場まで行って馬の世話をするんです。大変ですが、頑張る子は1年もそれをやり通すので成長しますよ」
目を細め子どもたちを見守るのは、粟島浦村長の本保建男(ほんぼたてお)さん(64)。持続可能な成長ができる島を目指し日々、奔走する。
粟島は1周23キロ、1島1村の小島だ。島の子どもの数は減り続け、12年度は17人に。
「このままでは子どもがいなくなる」
こうして13年4月、「しおかぜ留学」制度をスタートさせた。対象は小5~中3生で、全国から募る。1年目は6人、2年目は9人の留学生が島にやってきた。
島の留学制度は、人口減に悩む多くの離島で行われている。ただ、粟島浦村の特徴は、馬を飼育し、調教する中で、命の大切さとは何かということを学べる点にある。島には昔から野生馬がおり、昭和の初期まで50~60頭生息していた。野生馬は滅んだが、似た品種を買って育成しているという。