稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
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出雲で泊まったゲストハウスにはこんなイカした装飾が! 昔の職人のセンス恐るべし(写真:本人提供)
出雲で泊まったゲストハウスにはこんなイカした装飾が! 昔の職人のセンス恐るべし(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣氏が宿泊したゲストハウスのイカした装飾はこちら

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 憧れのバックパッカーへのささやかな第一歩として各地のゲストハウスに泊まっていることを先日書きましたが、実際にやってみるとただの訓練にとどまらず、日々の暮らしを豊かに生き抜くヒントまでもいただいております。

 と言いますのも、私が泊まるゲストハウスの多くが古い空き家を再利用しておりまして、その建物が実に素敵なのよ。「古民家」みたいな豪華なやつじゃなくてごくフツーの日本家屋なんだけど、しつらえがいちいちチャーミング。欄間があり、床の間があり、飾りのついた丸障子があり。

 改めて思い返すと、私が子供の頃に住んでいた祖父の家もチープな木造長屋だったが、床の間も欄間もあったっけ。あの時代はそれが当たり前だったんだよね。実用性ゼロの遊びだからこそ大工さんが腕を競ったのでありましょう。今よりずっと貧しい時代だったのに、なぜか余裕があったんだなあ。

 で、そう思うと、このようなお宝ともいうべき古い家は日本中に埋もれまくっているはずなのです。高齢化と人口減で古い家の住み手はどんどんいなくなり、空き家は今や社会問題なんだから。ということはですよ、うまいことやれば家賃の心配をせずともこうした「お宝住宅」で暮らすことだって可能なんじゃないでしょうか?

 問題はその「うまいこと」の中身なんですが、私がゲストハウスで学んだのは、何よりも掃除力がモノをいうということです。ゲストハウスの多くは最小限の改修しかしていないのですが、それでも気持ち良く過ごせるのは掃除が実に細やかに行き届いているから。さらに余分な備品がなくスッキリしている。なのでこうした「しつらえ」が引き立つ。つまりは掃除力と、少ないものでスッキリ暮らす力があれば、お金をかけずとも快適に美しく暮らしていくことが可能だということです。

 掃除。ずっと苦手でした。でも掃除機をやめて箒と雑巾にしたら突然掃除好きになったアフロです。前途有望じゃないの! 日々是修業。生きる資源は自分の中にある。

AERA 2017年10月9日号

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