


現在、東京・上野で開催中の「ボストン美術館の至宝展」は、同美術館約150年の歴史をひもとき、「華麗なコレクションがどう形成されたか」にもスポットを当てている。可能にしたのは、一人の女性アーキビストだった。
【写真】ウェルドが寄贈した「三味線を弾く美人図」(喜多川歌麿)はこちら
古代エジプト美術、浮世絵、印象派絵画から、ポップアートなど現代美術まで。そんな、リアル「美術の教科書」のような展覧会「ボストン美術館の至宝展」が開催中だ。
足を運ぶと、英一蝶(はなぶさいっちょう)、喜多川歌麿、セザンヌ、ルノワール、ゴッホ、アンディ・ウォーホル、村上隆と、各時代を代表するようなビッグネームの作品だらけ。すでに東京都美術館(台東区上野)で、ボストン美術館の収蔵作品のぶ厚さに驚いた人も多いと思う。
●市民のための美術館
それにしても、ボストン美術館はなぜ、これほどまでの“名画持ち”になれたのか。まずは、この美術館のプロフィルをざっとおさらいしてみよう。
その名の通り米マサチューセッツ州ボストンにあるボストン美術館の設立は、いまから150年近く前の1870年。もちろん、米国で最も古い美術館のひとつだ。
収蔵品は50万点以上。世界でも5本の指に入るほどの規模と豪華なコレクションで知られるが、その膨大なコレクションが形成された経緯はユニークだ。
19世紀のマサチューセッツ州にはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などもあり、それぞれが多くの美術品を収蔵していた。それを市民に披露するのにふさわしいスペースがなかったことから、市民のための美術館建設の声が高まる。建設のための理事会もできたが、着工直前、ボストンの街を大火が襲う。寄贈されるはずだった美術品の多くが失われた。
しかし、この災難が追い風になる。
市民などから多くの資金が寄付されたり、美術品が寄贈されたりしたのだ。大火のわずか2年後には着工。1876年、晴れて開館を迎える。
●地下室や屋根裏から
美術館の建設が始まると、好景気に乗って誕生した富豪たちが、個人的に集めた美術品を次々に寄贈した。結果、ボストン美術館は、公的資金をほとんど使わずに、収蔵品収集や建物の建設の多くを市民からの寄付でまかなうという、世界でもまれな美術館となっている。
収蔵品を寄贈した富豪、つまりコレクターたちに光を当てたことも、今回の「ボストン美術館の至宝展」の特徴だ。
彼らに光を当てることを可能にしたのは、現在「ボストン美術館 図書館・アーカイブ」館長を務めるモーリーン・メルトンさんの存在。歴史学とアーカイブ管理の修士号を取得したメルトンさんがボストン美術館で働くようになったのは、1987年のことだ。同館が雇い入れた、「最初のアーキビスト」だという。