●見張りの怠慢で衝突
米海軍は事故から5日たっても、当時の駆逐艦の行動について一切発表せず、フィリピン船員の事情聴取をした海上保安庁も口を閉ざしている。だが名古屋港から東京港に向かっていたコンテナ船の航跡は「船舶自動識別装置」で記録されている。これによれば、同船は衝突前は東北東に航行、午前1時30分ごろに衝突した後、右転して南東に向け6分間、約3キロ移動している。左側から接近した駆逐艦と衝突し、船首を押されて右に曲がったか、あるいは衝突を避けようとし、直前に右に舵を切ったかと思われる航跡だ。
2隻の船の針路が交差し、衝突コースに入った際には右側に相手を見るほうがよける義務があり、右舷が衝突した駆逐艦のほうが基本的には分が悪い。仮に駆逐艦が低速でほぼ同方向に進んでいて、コンテナ船がそれを右側から追い越そうとしていれば、追い越す側に避ける義務がある。だがコンテナ船は駆逐艦の右舷の緑燈を見て、自船の針路を横切ろうとする相手のほうが避ける、と思った可能性もある。夜間には他船の動きはわかりにくいが、天候は良かったし、航海レーダーには周囲の船の針路も表示されるから、どちらかが肉眼とレーダーでしっかり見張っていれば衝突は避けられたはずだ。
これは米軍の公務中の事故だから、米軍人に対しては地位協定で米国に第1次裁判権があるし、そもそもどの国の軍艦も他国の管轄権外だ。とはいえ、日本領海内での事故だから海保も捜査し、もしフィリピン船員に過失があれば日本側で訴追することになる。だが、米軍の全面的協力がなければ原因の解明は困難だ。(軍事評論家・田岡俊次)
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