経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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今回のフランス滞在ではユーロ(現金)をほぼ使いませんでした。もちろん、現金を使わなかった最大の理由はUber(ネット配車サービス)だといっていい。とにかく圧倒的に便利で、パリはもちろん、ボルドーやシャンパーニュなどの「ど田舎」でも普通に呼べるのには驚きました。
私はフランス語がそれほど堪能ではないので、タクシーを呼ぶのは本当に大変だった。しかし、Uberは一切会話をすることもなく、ドライバーの評価に基づいて、好きな車種などを選びたい放題。かなりの田舎でも常に5分圏内に5、6台はいます。料金も行き先も事前に決まっているので、ぼられたとか、遠回りをされたというトラブルも一切なし。カードで決済するので現金いらず。変なサービスをされても、評価を下せるので、先方も必死になってサービスをしてくれる……。
翻って、日本。いまだにタクシー会社の猛反対と規制によって、こういうサービスが受けられない。Uberさえあれば、地方の交通問題なんていとも簡単に解決してしまいます。団塊の世代が引退した今、ちょっとした空き時間のある「暇な人」は相当に多いはず。その中には英語が堪能な人(例えば元商社マン)などがかなりいるはずで、地方へのインバウンドを本気で考えるなら、今から既存の運転手に英語を教えるより、彼らを活用したほうがはるかに早い。
反対しているタクシー会社の経営者たちは大きな間違いを犯しています。Uberが自分たちの事業を圧迫すると信じているようですが、その昔、スターバックスのハワード・シュルツ会長がライバル会社が進出するにあたって(タリーズコーヒーなど)、資本援助はもとより、出店の手伝いまでしていた……という事実を思い出してほしいのです。シュルツ氏は、エスプレッソを飲む人口が増えれば、マーケット全体のパイが増えて、最大手であるスターバックスが最もそのメリットを享受するであろうことを分かったうえで、「敵に塩を送って」いたのです。
Uberの例でいうと、「自家用車非保有」という市場が広がれば、そのメリットを享受するのはまずタクシーだということを忘れてはいけません。これは地方における交通問題解決の切り札になり得ます。
※AERA 2017年6月26日号