圧勝を期し、解散総選挙を決めたメイ英首相の見通しの甘さが、致命傷となった。相次ぐテロで緊迫した英国で躍進したのは、最大野党・労働党だった。
与党・保守党を率いるメイ首相にとっては、全てが裏目に出た選挙戦だった。
大規模なテロが相次ぐ中で行われた英総選挙(下院定数650)で、さらなるテロを警戒して厳戒態勢がとられた6月8日の投票日。国民が出した答えは、「ハング・パーラメント(中ぶらりんの議会)」だった。過半数の議席を持つ政党が不在の状態をさす言葉だ。伝統的に連立政権を好まない英国にとっては、政治混乱を意味する。
仮に連立を組む場合、過半数割れまで議席を減らしながらも、かろうじて下院第1党を維持した保守党が連立工作で優位な立場にあるが、議席を増やした最大野党・労働党の存在感は大きく、政権基盤は弱くなる。再び総選挙をやる選択肢もある中で、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)交渉の見通しもはっきりしなくなった。
●思惑見え見えで反発
任期満了の2020年まで実施しないとしていた総選挙の前倒しを、メイ首相は今年4月18日に突然発表。その狙いは、ブレグジットでEUとの交渉を本格化させる前に保守党の勢力を増やし、政権基盤を盤石にすることだった。当時の世論調査は、支持率で労働党を20ポイント以上も上回っており、「圧勝」の見通しに基づく判断だった。
「思惑が見え見えで、逆に国民の強い反発を招いた。国民のための選挙ではなく、保守党のための政治ゲームだと思った」
そう話す英中部スタフォードの音楽家ダン・ジャクソンさん(35)は労働党に投票した。その理由についてこう説明する。
「労働党もブレグジットに反対していないため、離脱交渉への信任投票にしようとした保守党の思惑は最初から外れた。代わりにメイ首相が選挙公約に掲げた政策に批判が集中した。実際、ひどいもので、労働党はその逆を行って支持を広げた」
特に保守党の社会保障改革の公約は不評だったという。高齢者の在宅介護の自己負担額の見直し案は、「高齢者が自己の資金で自らの介護をしないといけなくなる究極の緊縮財政策で、認知症税だ」と怒る世論の反発を受け、急遽、負担額に上限を設けるという見直しを選挙中に強いられたほどだ。