経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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トランプ大統領が就任してから約2週間。彼のやり方を見ていると外資系投資銀行時代を思い出します。新しいボスは就任するとこうやって矢継ぎ早に改革案を示し、自分がボスであることを誇示し、部下に植え付けようとする。よく考えてみると、それらの方針にはどうでもいいこともたくさんあって、あとから振り返ればあくまでポーズだったものも多いわけですが、時代が変わったのだ!と見せつける、これが「トランププロレス政権」と言われるゆえん。
わずか10日余りで都合20本もの大統領令(いわゆるExecutive OrderとPresidential Memorandumを含む)を発しているわけですから、深謀遠慮があるはずもなく、とにかく、俺がボスだ!というホワイトハウス及び既存の政治家に対する宣戦布告とみるのが正解。まさにプロレス技の連発で、本気にしてはいけません。
アメリカに投資をされている方にはチャンスです。プロのやり方をここで伝授しましょう。まず、アメリカは今後50年にわたって若年労働人口が増えていく先進国では唯一の国です。放っておけば成長が約束されているわけです。黙って投資をすればいいわけですが、株にしても不動産にしても2008年の金融危機前の高値を抜いてきてしまっている。要するに割高なんです。高値を覚悟してついていくという方針しかなかったところに、トランプ大統領登場であります。あれだけ訳の分からん発言を連発するわけですから、それに対し市場が反応しきれずに売りが売りを呼んで市場が大暴落する可能性は十分にあります。元々アメリカの経済成長力は担保されていますから、これは大チャンス。ダウでいうと1万4千ドルくらいまで下がってくれればそれこそバーゲンセールです。既にいくつかの入国禁止措置を打ち出し大問題になっていますが、そのうち移民1千万人を送り返す(選挙期間中には実際に言っていた)などという大統領令にサインをしたなら、農業はもちろん、製造業からIT産業、はたまたハリウッドに至るまで移民労働者で成り立っているアメリカ産業は吹っ飛んでしまいます。市場は一気に大暴落。しかし、現実的にそんなことはできるはずもなく、担当大臣をYou are fired!でクビにして終了。これぞまさに「トランプ劇場」の真骨頂ですね。
※AERA 2017年2月13日号