政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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神奈川県の障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件から半年が経過しました。この事件の衝撃は、日本国内で起きた事件の中でも突出していると思います。
先日、事件の被害者である尾野一矢さん、ご両親の剛志さんとチキ子さんとお会いしました。剛志さんは、やまゆり園の家族会の会長をしていたこともある方です。印象的だったのはチキ子さんの「生命をどうやって育むのかということを、垣根を超えて語り合い、共に頑張ってきたのに、事件で口を閉ざし、被害者の名前すら口外できないなんて、あの時の連帯は何だったのか。だから自分たちは声を出したい」という言葉でした。
事件後、被害者の家族がなぜそれをひた隠しにせざるをえなくなったのか。そのことから私は目に見えない「壁の厚さ」を痛感したのです。