●「ガラスの天井」突破に期待寄せる女性たち

 そんなウィチタから東へ直線距離で約2千キロ──。

「これまでで最も大きなヒビを『ガラスの天井』に入れることができた」

 7月26日、ペンシルベニア州フィラデルフィア(人口約156万人)で開かれた民主党大会で、大統領候補に正式に指名されたヒラリー・クリントン(68)は、中継で会場のスクリーンに登場し、そう叫んだ。大物も大会で次々、クリントンに賛辞を述べた。現大統領夫人のミシェル・オバマ(52)は、

「私の聡明で美しい娘たちは、ヒラリー・クリントンのおかげで、女性が大統領になるのを当たり前と思うようになれるのです」

 と、声を詰まらせながら話した。アカデミー賞女優のメリル・ストリープ(67)も、珍しくこう絶叫した。

「あなたがたはみな、11月に歴史をつくるのです!」

 米国女性が勝ち得た大きな成果として、初の女性大統領誕生を待ち望む女性は少なくない。民主党大会でボランティアをしていた美容師プリシラ・ウェルカム(52)は、クリントンの熱狂的な支持者だ。電話作戦から戸別訪問まで参加し、票集めに奔走している。

「実力がある女性が大好きなの。ヒラリーは実力に加えて、元ファーストレディーで、前国務長官という他の人にはない経験もある。トランプとは違って、午前3時に電話がかかってきて、重要な決断を迫られても、即断できる人です。彼女を初の女性大統領に選べないのであれば、米国に『チェンジ』は訪れないでしょう」

女性大統領は歓迎だが「負の連鎖」解消が急務だ

 一方、小学校教師のケリー・コーリングス(47)は、外交問題などでクリントンの右傾化に失望し、民主党の対立候補だったバーニー・サンダース上院議員を支持した。

「女性大統領が必要かと言われれば、イエス。女性としても期待はしたい。でも、大企業や富裕層と癒着した大統領を選ぶわけにはいかない。なぜなら、貧富の差がここまで広がり、政府に声を聞いてもらえない人があまりにもいるから」

 コーリングスは民主党大会開催中の26日、フィラデルフィアで「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命の大切さ)」を訴えるデモに参加していた。白人警官による黒人などの銃殺事件が相次いだことから始まった運動だ。

 彼女は言う。黒人の子どもの多くが「いい学校」に行くことができず、成人すると逮捕されて刑務所に入る男性が他の人種よりはるかに多い。残された若い女性は、子どもの教育などの負担を全て負い、社会でさらに不利な立場に追い込まれる「負の連鎖」に陥っている、と。

 アフリカ系コミュニティーで生きてきた前出のウェルカムも、

「黒人の社会では、働き手の男が逮捕され、服役中の家が少なくない。残された家族にとって、政府や自治体の援助は全く不十分だ。そんななかで、女性だけで子どもに生命の尊厳を教えるなんて到底無理」

 と「負の連鎖」により女性にのしかかる負担を嘆く。

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