損失は50兆円以上、財政負担は20兆円──。日本の将来にかかわる大問題。この問題を各党はどう考えているのか。参院選を前に聞いた。
子どもの貧困を何の対策もせずに放っておけば、15歳の1学年だけでも、経済損失は約2.9兆円におよび、国の財政負担は約1.1兆円増える──。日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが昨年末、こんな試算を発表した。
問題を放置すると、学力や進学率など教育格差が生まれ、将来の賃金格差にもつながる。「子供の貧困対策に関する大綱」によると、大学や専門学校などへの進学率は、全世帯が73.3%なのに対し、生活保護世帯は32.9%、児童養護施設だと22.6%、ひとり親世帯は41.6%と、経済状況によって進学率に格差があるのは明らかだ。貧困世帯の子どもは塾に通えないということもあるが、家庭環境に問題を抱えていて勉強に身が入らないという背景もある。
試算では、進学率が今のままのシナリオと、貧困世帯の進学率が非貧困世帯並みに改善するシナリオを比べた。しかも、この推計はたった1学年分なので、これを子ども全体(18歳以下)で考えると、単純計算で国全体の経済損失は50兆円以上。さらに生活保護の支給などが増え、国の財政負担が約20兆円も増える。子どもの貧困は「かわいそうだから対策すべき」と思われがちだが、実は経済問題として解決すべき課題でもあり、当事者だけの問題ではなく、将来への投資として国全体が取り組むべき課題なのだ。
●所得再分配効果少ない
そもそも日本で子どもの貧困格差がこんなにも深刻なのはなぜなのか。
もちろん、親の所得格差が開いてきたことが理由に挙げられるが、首都大学東京教授で、同大が15年に設立した「子ども・若者貧困研究センター」のセンター長を務める阿部彩さんは、教育と社会保障の問題点を指摘する。本来なら、教育は経済格差を緩和する機能を持つべきなのに、日本では経済格差がそのまま学力差になる。
「同じように毎日学校に通っていてどうしてこんなに学力格差が出てしまうのか。学校での教え方について、もう一度見直す必要がある」(阿部さん)
また、税や社会保障制度については、数年前まで国の所得再分配によって、子どもの貧困率がアップするという逆転現象が起きていた。
「所得再分配」といえば、税制や社会保障などを通じて、所得の高い人から低い人へ富を移転させて貧困を削減することが期待されているのに、日本では低所得層の社会保険料や税の負担が大きいうえに、子育ての負担を減らす社会保障の給付が少ないために再分配後の貧困率が高くなってしまっていたのだ。