さささっとペンを滑らせ、手塚漫画の「影」を生き生きと説明する浦沢さん。対談は「第20回手塚治虫文化賞」記念イベントとして行われた(5月29日、東京・有楽町朝日ホール、撮影/今村拓馬)
さささっとペンを滑らせ、手塚漫画の「影」を生き生きと説明する浦沢さん。対談は「第20回手塚治虫文化賞」記念イベントとして行われた(5月29日、東京・有楽町朝日ホール、撮影/今村拓馬)
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糸井さん(右)は中学生のころ漫画家になりたかったという(撮影/今村拓馬)
糸井さん(右)は中学生のころ漫画家になりたかったという(撮影/今村拓馬)

 漫画「YAWARA!」や「20世紀少年」で知られる浦沢直樹さんと、コピーライターの糸井重里さん。創作秘話や手塚治虫漫画の魅力を語り合った。

糸井重里(以下、糸井):中学生のとき漫画家になりたかった。でも、なれなくて本当によかったし、僕は今でも漫画に対するリスペクトは高いです。

浦沢直樹(以下、浦沢):締め切りに追われる、ひどい仕事ですよ(笑)。例えば木曜日に校了の週刊誌があって、無理をいって月曜日までのばしてもらう。寝ていない状態でヒイヒイ納めてハッと気づくと、次の木曜日が目の前なんですよ。

糸井:聞いているだけでドキドキする。原稿を渡したとき、次の週の案は頭にあるんですか。

浦沢:うーん、ありそうで、ないです。描いているうちに、こうじゃないなと思ったら全部なしになっちゃうから。日本の漫画のすばらしいところは即興性ですよね。

糸井:へとへとに苦しくなるとアイデアがひらめかなくなると思われがちですが、逆もありますよね?

浦沢:よくあるのは、もうだめだと言ってバッと倒れると、「わかったぁ」ってなるんです。

糸井:へええ。僕は、時間をたっぷりもらっても何も出てこないとき、なんにもないなあって言って、ちょっと寝るかな。

浦沢:僕はガラスを拭きますね。

糸井:いいですね。お風呂はどうですか。僕はお風呂で思いつくことが多いんだけど、いま考えたいテーマじゃない、別のいいことが浮かぶんですよ。

浦沢:「Happy!」の最終回を描き終えたとき、「YAWARA!」から約13年週刊誌でやっていて、もう二度と週刊誌になんて描くものかって思いながらお風呂に入っていたんです。そうしたら「20世紀少年」の「国連事務総長」みたいな人が「彼らがいなければ21世紀を迎えることはなかったでしょう」と言う演説が浮かんだの。考えるという作為が飛んだ瞬間に、パッと何かが飛んでくるんですよ。

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