地方でも盛り上がるベンチャーブーム。なかでも「最も熱い街」と関係者が口をそろえるのが福岡市だ。現地を訪ねた。
福岡市の繁華街・天神。TSUTAYA(ツタヤ)やスターバックスが入るガラス張りのビルの3階に、木目調で統一されたテーブルやいすが並ぶしゃれたカフェスペースがある。福岡市が昨年10月に開設した起業支援施設「スタートアップカフェ」だ。
記者が訪ねた木曜は、弁護士や税理士、日本政策金融公庫の担当者らの個別相談を無料で受けられる定例日。起業を目指す人がぱらぱらとやって来ては、会社設立の手続きや資金調達について助言を受けていた。
「大学生から80代の方まで、平均すると月に100人近くが起業の相談に訪れます。『福岡で起業したい』と県外から来る人も1割くらいいます」
地場のベンチャーキャピタル「ドーガン」の出身で、起業相談を受ける「エグゼクティブ・コンシェルジュ」の藤見哲郎さん(38)は、そう話す。
カフェのサービスは至れり尽くせりだ。早くも起業にこぎつけた人も出ている。口コミ情報をもとに、体質や好みに合った化粧品を見つけられるスマホアプリの開発を手がける「Medy(メディ)」を設立した原田真美社長(31)の例を見てみよう。
広島県出身。転勤で福岡に住んでいた時、気に入ったこの街で起業しようと会社を辞めた。ちょうどその翌月にカフェがオープン。週3、4日は入り浸り、無線LAN完備のカフェをオフィス代わりに使った。
民間出身のコンシェルジュの助言を受けながら、ぼんやりしていた事業のアイデアをノートに書き出すことから始め、市場規模や成長性を調べ上げてビジネスプランを煮詰めた。国の創業補助金を受けるための事業計画書作りにも協力してもらった。行政書士からは法人登記の手順を、社会保険労務士にはアルバイトの雇用契約書の書き方を教わった。「ここまで全部タダ」(原田さん)。今年3月、Medy設立にこぎつけ、アプリは9月に提供を始める予定だ。
「最初は本当に何もわかっていなかった。カフェがなかったら、起業できずに転職していたかも」
※AERA 2015年8月24日号より抜粋