アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はコクヨ工業滋賀の「ニッポンの課長」を紹介する。
* * *
■コクヨ工業滋賀 開発グループ 課長代理 岡田佳美(35)
のどかで自然豊かな琵琶湖は、人々に安らぎと恵みを与える。岸辺を覆うヨシ(葦)の群落は、水鳥や魚の産卵場所になり、命を育む。水をきれいにする作用もあるから、ヨシを守ることは、多くの人々の暮らしを守ることにもつながる。岡田佳美は、そんな琵琶湖の近くで生まれ育った。
幼いころから、無類の文具好き。さらには環境やものづくりに興味をそそられる“リケジョ”でもある。滋賀県立大学工学部材料科学科を卒業すると、迷わず文具メーカーへの就職を決めた。配属先は、地元のコクヨ工業滋賀。ノートの生産量が日本一という工場だ。
希望した仕事は、商品開発。会社がちょうど新ブランドを立ち上げようとしていた時期とも重なり、入社早々、誕生したばかりの開発グループで働くことになった。そこで目をつけたのが、ヨシ。枯れたヨシで紙をつくってみては、という案が検討された。そうして生まれたのが、2007年発売の「リエデン・シリーズ」のノートや名刺だ。リエデンとは「エデンに帰ろう」という意味。
何といってもユニークなのは、色のネーミングだ。バームクーヘン、竹生島、オオナマズ、忍者、野菜ジュース……。
「開発担当の3人は全員が女子だから、最初はほとんどが食べ物の名前でした」
もちろん、楽しいことばかりではない。ヨシパルプ100%のロール紙づくりは、機械への負荷が大きく、製紙会社に何度も試作を断られた。
「それでもお願いして、やっと実現したんですが、その後も試行錯誤を重ね、名刺にするまでに1年近くかかりましたね」
そういう岡田の名刺は、しっかりとした紙質を保ちつつ、温かみのある風合いだ。
1年半前に娘を出産し、育休取得後に職場復帰した。自然環境の循環は、生命の循環。
「自分たちのつくったものが環境を考える渡し船になれたら」(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2014年9月29日号