アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は東京国立博物館の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■東京国立博物館 学芸企画部 博物館教育課 課長 小林牧(52)
国宝87、重要文化財633……収蔵する「宝物」の総数は、11万件以上にのぼる。
「本物に接する感動を、ひとりでも多くの人に体験してもらいたい」
そのために何ができるか。それが東京国立博物館(東京・上野公園)の博物館教育課課長、小林牧に課されたミッションだ。展示された文化財の数々を、より深く理解してもらうためには、どうすればいいか。日本の伝統文化などに興味がない人にとっては、東京国立博物館の敷居は高い。
「来館のきっかけをつくることが大事」
そう考えた小林は広報室にいた頃、館の愛称「トーハク」をPRし、ゆるキャラの「トーハクくん」「ユリノキちゃん」を積極登用。秋には、東洋館の仏像展示室で「朝ヨガ会」を催すつもりだ。人気俳優を起用したトークショー、子ども向けに写生会も控えている。アイデアは尽きることがない。
2000年、雑誌編集者から転職した。慶應義塾大学で国文学を専攻し、卒業後は平凡社に入社。雑誌「太陽」の編集者を長く務め、取材で数多くの博物館、美術館を回った。30代も後半になり、「そんな古くさいところに、なぜ」と言われるも、心機一転を図るため転職を決意した。この春、広報室長から今の役職に昇格。140年を超える博物館の歴史で、初の女性課長だ。
文化財は、時空を超えた情報を伝えてくれる。展示室には、縄文時代の土器、土偶から、近代絵画、工芸品まで並ぶ。着物や陶磁器に描かれた草花の文様や、絵画に表現された自然や風景に心を打たれる。昔を生きた人々は、何を考え、これを描いたのだろうか。登山をしていて、その理由がわかる気がした。茂みをかき分け、岩場をよじ登る。視界に飛び込む風景を見て、心が動いた。きっとこの感情は、100年、千年前も変わらなかったのではないか。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・岡本俊浩)
※AERA 2014年7月14日号