富士重工業「派手さなくとも一級品」富士重工業 スバル技術本部 車両研究実験総括部主査 香川穣(48)撮影/伊ケ崎忍
富士重工業
「派手さなくとも一級品」

富士重工業 スバル技術本部 車両研究実験総括部
主査 香川穣(48)
撮影/伊ケ崎忍

 アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。

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 現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。

 あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。

 今回は富士重工業の「ニッポンの課長」を紹介する。

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■富士重工業 スバル技術本部 車両研究実験総括部 主査 香川穣(48)

 スバルの代名詞とも言える「レガシィ」の発売から25年目。富士重工業が6月20日、「フルモデルチェンジ」と意気込んで投入する新車がある。新開発したスポーツツアラー「LEVORG(レヴォーグ)」。力強く走るレガシィの設計思想を受け継ぎながら、車体は一回り小さい。縮小する日本市場で、あえて勝負をかける戦略車だ。

 エンジン、車体、インテリア……。新車を開発すると決めたら、2千人にも及ぶスタッフが動く。スバル技術本部の車両研究実験総括部主査を務める香川穣は、各部署の間の調整役。技術陣は先端技術を思う存分、盛り込もうとするが、それでは販売価格が高くなりすぎて売れない。決められたコスト内に収めるよう、香川は奔走する。

「技術屋はわがまま。そこを全体としてどうまとめるか。若い課長だったら務まらないんじゃないか。年を重ねてきた経験が生きるポジションです」

 1990年、航空機がつくりたくて富士重工業に入社した。しかし、配属されたのは自動車部門の材料研究部。バブルが崩壊すると、販売ディーラーへの出向を命ぜられた。開発から営業へ。「なぜおれが」と戸惑った。ただ、消費者と向き合い、生の反応に触れるうち、「求められているもの」を知り、消費者の目線を意識するようになった。2007年から現在の役職に就き、色々な車の開発にかかわるが、販売での経験は財産だ。

 メディア向けの試乗会でも、要点を押さえた説明には定評がある。調整役として開発のデータを集約してきたので、技術からコストまで熟知している。役員会の議論のたたき台をつくるのも、香川の仕事だ。

 技術革新は絶え間ない。ただし、香川はスバルの車はこうあるべきと考えている。

「質実剛健。派手さはなくとも、人生を豊かにする一級品の道具であり続ければいいんです」(文中敬称略)

※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです

(ライター・岡本俊浩)

AERA  2014年6月16日号