新しい造語「家事ハラ」が話題になっている。働く男女をめぐる家事のありかたについて、考える時が来ているのかもしれない。
7月中旬、旭化成ホームズ・へーベルハウスの「妻の家事ハラ」キャンペーンが批判を受けて炎上した。インターネット上に公開された動画では、掃除や洗濯、食器洗いなどの家事をする夫に、妻がこんなダメ出しをする。
「あなたが(洗濯物を)たたむとヘンな跡がつくの」「いいのよ、頼んだ私のミスだから」「早く終わったね。ちゃんとやってくれた?」
妻の言葉に傷ついた夫の表情が映し出され、「その一言が俺を『家事』から遠ざけた」というナレーションが入る。夫の約7割が「妻の家事ハラ」を経験しているという調査結果も発表された。東京都内を中心に電車内広告も展開し、多くの人の目に触れたが、批判が殺到。月末まで予定していた広告期間を4日前倒しで終了した。
批判の多くは、妻側に立つものだった。「共働きなら、夫が家事を“手伝う”という考えがおかしい」と、夫の家事に対するそもそもの心構えを否定するものや、「ただの甘え」「女が子どものころから言われてきたこと。でも家事から遠ざかるなんて選択肢はなかった」などと、気分を害されたことを理由に家事を妻に任せる夫の無責任さへの批判があった。また、「(夫婦を)対立させる意味がわからない」と、キャンペーンの目的についての違和感もあった。
2人の子を持つ弁護士の女性(41)は、夫にダメ出しする理由をこう言う。
「夫は効率が悪くて、1日家にいても、洗濯も食器洗いも終わってない。『朝から何をしてたか言ってみて』と問いただして、無駄な時間を全部指摘しました」
そもそも「家事ハラ」という言葉は和光大学教授でジャーナリストの竹信三恵子さんの造語で、主に女性が担ってきた家事労働が無視されたり過小評価されたりすることを意味する。つまり、男性や社会から女性に対してのハラスメントが構造的に存在しているという真逆の指摘だった。著書『家事労働ハラスメント― 生きづらさの根にあるもの』では、家事ハラが女性の貧困を生み、男性もワーク・ライフ・バランスを欠いた生き方を余儀なくされていることなどが指摘されている。竹信さんは旭化成ホームズに抗議し、後日、同社のサイトには本来の「家事ハラ」の意味が掲載された。
※AERA 2014年9月1日号より抜粋