昨年12月、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。喜ばしいこととして報道されたが、こんな疑問を抱いた人もいたのでは。「和食ってユネスコで保護してもらわないといけないほど絶滅危惧種なの?」
ユネスコ登録申請を最初に提案したのが、京都の料理人たちによって立ち上げられたNPO法人日本料理アカデミーだった。2011年に京都府とともに政府に働きかけ、すぐに農林水産省内に「日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会」が立ち上げられた。アカデミーの理事長で、料亭・菊乃井(京都市東山区)の3代目主人、村田吉弘さん(62)はこう話す。
「日本料理は、日本とそれ以外というほど独特です。人間は同じものを食べ続けると飽きますよね。しかし、糖質・油脂・うまみ成分が脳の快感中枢を刺激して、また食べたいと思わせる。糖質は炭水化物だから、どの民族でも食べますね。残りの二つのうち、世界のほとんどの地域では油脂を中心に料理を構成している。うまみ成分を中心にしているのは日本だけなんです」
油脂は1グラムあたり約9キロカロリーの熱量があるが、うまみ、つまりだしはカロリーレス。「日本料理はヘルシー」と世界が認める最大の理由だ。
だが、長い間、外国人にとって魚介のだしは生臭いだけのもので、魚の生食も奇異な風習だった。寿司を広めるためにカリフォルニアロールを“発明”しなければならなかったほど。「UMAMI」「DASHI」が世界のトップシェフを魅了する現在とは、隔世の感がある。
実際のところ、外国人は日本食をどう思っているのか? 『英国一家、日本を食べる』(マイケル・ブース著)はそれを知るのに格好の一冊だ。英国人フードジャーナリストが妻と2人の息子とともに訪日し、東京、北海道、京都、大阪、沖縄と100日かけて食べ歩く。幻の名店から屋台の粉ものまで幅広い。
「今や寿司は世界中で食べられるようになり、ヨーロッパの人々も日本的な甘酢の味に慣れ親しみつつあります。ロンドンでもパリでもニューヨークでもラーメンは大人気ですし、うどんや焼き鳥も出てきています。私はたこ焼きやお好み焼き、串カツも大好きです」
そう言うマイケルさんだが、懐石は少し事情が違うという。
「KAISEKIはまだ一般に十分理解されているとはいえません。西洋の料理とは食感がまったく異なるからです」
※AERA 2014年3月31日号より抜粋