


通院患者でもない人が足しげく通う病院がある。せんぽ東京高輪病院(東京都港区)。院内レストランのランチは、健康的でおいしいと評判を呼んでいる。入院患者に提供されている病院食とほぼ同じメニューは『せんぽ東京高輪病院500kcal台のけんこう定食』を参考に作られている。
著者で、同院の栄養管理室長の足立香代子さんは、「ここで提供する病院食は、街の定食屋のメニュー以上のレベルを目指して、魂を込めて作っています」と話す。
病院の約7割は、入院患者の食事の栄養計算から調理まで委託会社に任せているが、ここでは病院内で全て調理する。
「病院食のおいしさは、だし、食材、そして調理する人たちの力量も関係します」(足立さん)
減塩メニューの患者に出す食事も、おいしいだしを使えば、おいしく感じる。足立さんは、うまみが最もよく出るさば、かつお、昆布などの配合を研究。だし専門店に特別に配合してもらっただしを使っている。
「スパイスを上手に使えば、減塩してもおいしく食べられます。厨房にはいろいろなスパイスを常備しています」
足立さんは、病院の食事は家庭よりもよくて当たり前と思ってきた。子どものころ風邪をひいたら、母親がていねいにおかゆを炊いて、産みたての卵を落としてくれた思いが原点にある。
ところが、管理栄養士として病院で働くようになって、失望した。入院したら食材の質も食器も選べない。メニューは煮物が多く、患者が喜ぶようにひと手間かけようとする気持ちが感じられなかった。
そこで、料理本を買い集め、おいしさを求めて料理研究家やシェフのレシピを分析。ときには、直接シェフに教えを請いに出かけた。一方で管理栄養士の仲間を集めて勉強会を開き、レシピ集を出版し、病院食の改革につとめてきた。
「病院食はサイクルメニューですが、料理はどんどん変えていくべき」と、調理担当者にも新しいレシピを出してもらう。足立さんも自分が食べた料理が使えそうだったら、すぐにレシピに反映させる。ベトナムで食べたフォーに添えられていた生たまねぎのアイデアなども取り入れた。絶えず工夫しているから、入院患者の食事への満足度が高い。
※AERA 2013年12月16日号より抜粋