中国の防空識別圏設定以前の計画により、米空軍の爆撃機B52H2機は11月26日、東シナ海上空を飛行。中国戦闘機は現れず、従来どおりレーザー監視を続けた(写真:gettyimages)
中国の防空識別圏設定以前の計画により、米空軍の爆撃機B52H2機は11月26日、東シナ海上空を飛行。中国戦闘機は現れず、従来どおりレーザー監視を続けた(写真:gettyimages)
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 中国が11月23日に突如、尖閣諸島上空を含む東シナ海に「防空識別圏」を設定した。「設定しないのは弱腰」との世論に乗ったようだが、国際常識に反する粗雑な内容だ。

「防空識別圏」は本来は領有権とは無関係だ。防空部隊がレーダーで空を見張る際「この線からこちらに向かってくる航空機があれば注意して見ろ」という「目安」にすぎない。だから航空自衛隊は、日本海側では佐渡や輪島(能登半島)のレーダーに映る限界の550キロ付近に線を引き、旧ソ連爆撃機の接近を少しでも早く探知しようとした。一方、敵機が現れそうにない小笠原諸島は圏外だし、実効支配していない北方領土や竹島も入れていない。

 欧州のように陸続きの国々では、国境上空を見張っていては迎撃が間に合わないから、他国上空に線を引いて見張る。

 ところが今回、中国が出した通報は中国領空(海岸から22キロ)に入ろうとする航空機だけでなく、最大約600キロも沖の公海にひろげた防空識別圏を通過する全ての航空機に対し、飛行計画を提出し、無線交信を保ち、指示に従うよう命じ、

「識別に協力せず、あるいは指示に従わない航空機に対し、軍は防衛的緊急措置を取る」

 などとしている。日本は公海上空の外国機に権限がおよばないことは承知しているから「リクエスト」(要望する)という語を使って協力をお願いしているが、中国は「マスト」「シュッド」(しなければならない)と命令口調だ。どの国も領空侵犯寸前になれば、相手の前方に機関砲から曳光弾で「信号射撃」をする場合があり、侵犯されれば強制着陸させるが、公空を飛ぶ外国機が指示に従わないだけで「防衛的緊急措置」とは乱暴だ。この通報を書いた中国空軍将校や、それを認めた国防部の幹部は領空と防空識別圏のちがいがよく分かっておらず、他国の例も詳しく調べなかったのではと思われる。

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