世界で初めてストリートペーパーのビジネスモデルが誕生したのは1991年。ロンドンでの「ビッグイシュー」だった。ストリートペーパーとはホームレスが路上で販売することで彼らの仕事を創出し、ホームレス問題を世に喚起する雑誌や新聞のこと。それから22年、世界各国で発行され、7月末にはドイツ・ミュンヘンで総会が開かれ、29カ国・地域のストリートペーパー関係者が集まった。うち欧州からは19カ国が参加。
「欧州内でも国ごとに社会保障制度や経済状態が大きく異なり、お国柄が各国のストリートペーパーには反映されています」
日本から参加したビッグイシュー日本版の副編集長、八鍬加容子(やくわかよこ)は語る。八鍬は2年前、欧州各国のストリートペーパーの現場を訪ね歩いた。
「国によって販売者の顔ぶれも違う。ドラッグユーザーが圧倒的に多いノルウェー、移民が過半数を占めるオランダ。若者の失業率が65%と言われるギリシャでは債務危機以来、『うちの子どもを雇ってほしい』という親からの電話が頻繁に編集部にかかってくるそうです。販売者のプロフィルがその国の社会問題を映し出し、ホームレス問題は社会問題だと改めて実感します」
一方、共通するのは「排除」ではなく「包摂」の哲学だ。ノルウェーの「エルリック・ノージ」は販売者の過半数がドラッグユーザー。雑誌を売った金で販売者がまたドラッグを買うかもしれないが、読者もそれを承知で雑誌を買うのだという。
「『ドラッグほしさに窃盗を犯し、社会から排除されるよりはまし』という考え方。まず包摂する。その考え方に非常に成熟した市民像を見た気がします」(八鍬)(文中敬称略)
※AERA 2013年10月28日号