『Early Years: 1937-1951』
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『1945-46』
『ファッツ・ナヴァロ・メモリアル』
『In Paris Festival International De Jazz』

●ディジー・ガレスピー(1917‐1993)

ディジーの夜は長かった

 ガレスピーの録音を時系列で追っても、すぐには「ディジー」にも「ガレスピー」にも出会えない。7年分は聴くはめになる。35年、ラジオ中継されたテディ・ヒル楽団のロイ・エルドリッジに魅かれてデビュー、37年にロイが去ったあとのヒル楽団に入団する。初録音は5月、ここでのソロはロイの縮刷版だ。39年の夏から41年9月までキャブ・キャロウェイ楽団にいて、参考音源の4割でソロをとっているが、ロイの亜流をこえはしない。

 42年、ガレスピーの研鑽が実を結びはじめる。4月にレス・ハイト楽団の《ジャージー・バウンス》で、7月にラッキー・ミリンダー楽団の《リトル・ジョン・スペシャル》でとったソロはバップ風と呼んでいいものだ。その一方で、ほかではロイ・スタイルをとどめ、「スウィング・トゥ・バップ」を地でいくかっこうになっている。チャーリー・パーカーと出会い、「バップ風」から「風」がとれるまでには、もう少し時間が必要だった。

パーカーと迎える夜明け

 42年12月、ガレスピーはアール・ハインズ楽団に参加し、パーカーと出会う。パーカーと組んだ43年2月の《スウィート・ジョージア・ブラウン》は、革命前夜の覇気が伝わる記録で、ガレスピーも完成間近だ。このあと録音は途絶える。吹き込みストのせいでハインズ楽団の録音はなく、43年の末に結成した史上初のバップ・コンボの録音もない。44年2月、コールマン・ホーキンスのセッションに登場するガレスピーはできあがっている。

 ビ・バップを志したトランペッターでガレスピーの影響をまぬがれた者はいない。ルイ・アームストロングの時代にはビックス・バイダーベック、ロイの時代にはバニー・ベリガンという選択もあったが、もう一人のガレスピーは現れず、黒人も白人もガレスピーを手本にした。代表としてはハワード・マギー、ファッツ・ナヴァロ、(マイルス・デイヴィス)ケニー・ドーハム、白人ではレッド・ロドニー、コンテ・カンドリをあげておく。

●ハワード・マギー(1918‐1987)

手に手をとってロイ詣で

 マギーはガレスピーより3ヵ月あまり年下にすぎない。少年時代はクラリネットを吹いていた。後年の歯切れのよさはそのおかげだろう。35年にルイの演奏に魅かれ、テナー・サックスからトランペットに転向する。39年にデビュー、ローカルのバンドやライオネル・ハンプトン楽団を渡り歩いているが、当時の録音はない。ロイがトランペット界を席巻していた時期からして、デビュー前後のアイドルが相変わらずルイだったとは思えない。

 41年、マギーはアンディ・カーク楽団に入団する。初録音は42年6月、自作の《マギー・スペシャル》でフィーチャーされ、名声を確立した。ここでのマギーはロイそのものと言ってよい。マギーのスウィングから脱け出す試みは、ナヴァロがカーク楽団に入団する43年の暮れからはじまる。ただし、一朝一夕にロイの影響から逃れられなかったことは、二人がロイの追っかけをやっていたというマギーの証言と、そのあとの録音に明らかだ。

激情噴出燃え尽き症候群

 44年に見るべき録音はない。45年1月のチャビー・ジャクソン、1月から3月のコールマン・ホーキンス、3月のチャーリー・ヴェンチュラの各セッションでは、ひいき目に見てもモダンなロイ・スタイルだ。ガレスピーを思わせる演奏も過渡期のスタイルに近い。いわば、尻にスウィングの殻をつけたままだった。模索の成果が見えてくるのは9月の初リーダー・セッションからで、ロイからの影響とガレスピーからの影響が逆転していく。

 バップの語法を消化し、個性を確立したマギーの姿は、46年4月のリーダー・セッションからとらえられはじめ、7月には生涯で最高の名演をダイヤルに残している。ハイ・ノートを炸裂させ、激情にまかせたワイルドなマギーは、たしかにガレスピー以上にバッパーらしかったと言えるのではないか。しかし、奔放なスタイルと麻薬癖は早々に閃きの泉を涸らせ、最盛期は49年で終わる。そのマギーが影響を与えたとされるのがナヴァロだ。

●ファッツ・ナヴァロ(1923‐1950)

元ネタを明かさない天才

 ナヴァロは6才でピアノをはじめ、13才でトランペットに転向した。ナヴァロもまた初期のアイドルはロイだった。41年にデビュー、43年の暮れにカーク楽団に入団し、そこで意気投合した5才年上のマギーから影響を受けたと自ら語っている。二人が在団していた時期の録音で、それを確かめるのはむずかしい。たしかにマギーにちがいないと思えるソロにまじってナヴァロらしき断片も聴かれるのだが、断定をゆるすようなものではない。

 後年のものだが、影響源のヒントになる録音がある。一つはマギーと共演した48年10月の《ダブル・トーク》だ。注意すればトーンとソロ構成からナヴァロと知れるが、漫然と聴いていてはとりちがえる。それほど似ている。もう一つは49年1月のメトロノーム・オールスターズによる《オーバータイム》だ。ガレスピー、ナヴァロ、マイルスの三者がガレスピー・スタイルで吹いていて悩ませる。ソロ順が納得できる解説はあるのだろうか。

ブラウンにつなげた巨星

 44年の暮れ、ナヴァロはガレスピーの紹介でエクスタイン楽団に移る。この時点で早くも個性を確立しつつあったことは、45年2月~3月の《ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー》の、暖かく均質なトーンによる立てつけのよいソロで聴きとれる。46年6月にエクスタイン楽団を退団し、活動の主体をコンボ演奏に移す。完成間近の姿は9月のリーダー・セッションほかに、完成した姿は12月のホーキンスのセッションほかにとらえられている。

 ナヴァロの完璧なテクニックと、あらかじめ作曲されたかのような構成力に富んだアドリブは、脱ガレスピーを模索していたトランペッターのモデルになった。影響を与えあったとされるマギーのほかにはドーハムを、白人では47年前後のロドニーをあげておく。ナヴァロの流れをくむなかで最大の存在がクリフォード・ブラウンだ。ルイ‐ロイ‐ガレスピー‐ナヴァロ‐ブラウンとつらなる系統がジャズ・トランペットの主流をなしている。

●マイルス・デイヴィス(1926‐1991)

非力で手強い未来の帝王

 バップ期のマイルスを敬遠される方が少なくないようだ。残された全テイクを時系列で聴いていくと、個性を確立していく様子が手にとるようにわかり、それはそれで実にスリリングだと思うのだが。初録音は45年4月、歌手ラバーレッグス・ウィリアムスのセッションだった。露出度は低く、誰かの影を云々できるような演奏ではない。蚊の鳴くような吹奏だが、しぶといことにマイルストーンの芽生えが見られる。早くも異能の人だった。

 パーカーのサイドマンとしての初録音は45年11月、ガレスピーのスロー・モーション版といったところか。かつてのアイドルとされる、ハリー・ジェームスやクラーク・テリーの痕跡はない。全盛期のロイについても然りだ。そもそも、誰かを真似たことなどないのではないか。47年8月にはパーカーを従がえて初リーダー・セッションに臨む。脱ビ・バップを予感させる音楽性は注目すべきだが、トランペッターとしての力不足は隠せない。

非主流派のスタイリスト

 このあとは急速に腕をあげていき、パーカーと袂を分かつ48年12月のエア・チェックに個性を確立した姿がとらえられている。マイルスがトップ・クラスに達していたことは、メトロノーム・オールスターズの「目隠しテスト不能」演奏と、49年5月のパリ国際ジャズ・フェスティヴァルのエア・チェックに明らかだ。独自のスタイルを追求したのはガレスピーに挫折したからではなくて、第二のガレスピーになる気などなかったからだろう。

 マイルスの影響は早くも同時期のトランペッターに見られる。ドーハム、白人ではパーカー時代のロドニー、ショーティー・ロジャースなどだ。少しあとになるとチェット・ベイカーがいる。さらにそのあととなると、さながらネズミ算で枚挙に暇がない。サウンド・クリエイターとしての評価がまさるきらいのあるマイルスだが、トランペッターとしても非主流派?のトップ・スタイリストであったことを、力説しておかなければなるまい。

●参考音源

[Dizzy Gillespie]
The Early Years/Dizzy Gillespie (37.5, 42.4 & 7 Jazz Legends)
The Chu & Dizzy Years/Cab Calloway (39.8-41.3 Hep)
Lionel Hampton (39.9 Bluebird)
The Harlem Jazz Scene-1941 (41.5 Esoteric)
The Complete "Birth of the Bebop" (43.2 Stash)
Rainbow Mist/Coleman Hawkins (44.2 Delmark)

[Howard McGhee]
Andy Kirk and his Clouds of Joy 1940-1942 (42.7 Classics)
Andy Kirk and his Orchestra 1943-1949 (43.12 Classics)
The Uncollected Andy Kirk (44 Hindsight)
The Small Herd/V.A. (45.1 Keynote)
Hollywood Stampede/Coleman Hawkins (45.1-3 Capitol)
Sunset Swing/V.A. (45.3 & 11 Black Lion)
Howard McGhee 1945-1946 (45.9-46.7 Classics)
Jazz At The Philharmonic 1940s (46.1 Verve)

[Fats Navarro]
Together/Billy Eckstine (45.2-3 Spotlite)
The BeBop Revolution/V.A. (46.9 Bluebird)
Fats Navarro Memorial (46.9, 47.10 Savoy)
Bean and the Boys/Coleman Hawkins (46.12 Prestige)
In the Beginning... BeBop/V.A. (46.12 Savoy)
Nostalgia/Fats Navarro (46.12, 47.12 Savoy)
The Fabulous Fats Navarro Vol.1 & 2 (48.10 Blue Note)
The Metronome All-Star Bands/V.A. (49.1 Bluebird)

[Miles Davis]
First Miles/Miles Davis (45.4, 47.8 Savoy)
The Complete Studio Recordings on Savoy Years 1-4 /Charlie Parker (45.11-48.9 Savoy)
All Stars Recordings/Miles Davis (47.1-49.4 Definitive)
The Complete Birth of the Cool (48.9-49.4 Capitol)
The Complete Royal Roost Live Recordings on Savoy Years 1 /Charlie Parker (48.12 Savoy)
The Metronome All-Star Bands/V.A. (49.1 Bluebird)
The Miles Davis-Tadd Dameron Quintet in Paris Festival International De Jazz (49.5 Sony)

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