ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、中居正広さんを取り上げる。
* * *
芸能・エンタテイメントとは読んで字の如く「芸」であり「技術」であり「才能」です。そしてそれを観せるためには、「シナリオ」や「計算」、何よりも「準備」が欠かせません。特に、決められた台詞や歌詞や振り付けがないテレビタレントにとっては、いかに生身の自分を、テレビというフィクションの中で、ノンフィクション性の高い人間にコーディネートできるかが勝負の鍵です。たとえ突発的な本音や素を晒さなければならない場面でも、日頃から「準備」という名の鍛錬を重ねているからこそ、それが立派なエンタテイメントに成り得るのだと思います。
テレビの中で仕事をしていると、ただ思いのままに存在している風に見える人ほど、綿密な準備がなされているのだと痛感する機会が多々あります。彼らは表現のリミッターを限界すれすれで設定しながらも、決して踏み外すことがない。それは守りに入っているとかではなく、コミュニケーションにおける「攻め」と「受け」、「参入」と「回避」の判断に対する備えを常にしていて、尚且つ俊敏なのです。だからこそ自分のペースで場を司ることができる。その極めつきだったのが、先日の中居正広さんの会見ではないでしょうか。実に緻密で機敏な、彼の類稀なる偏執っぷりが炸裂していたエンタテイメント・ショーでした。観ていて「もしかして中居くんが約30年かけて鍛錬し続けてきた芸能道のすべては、この会見のためにあったのでは?」と思わせるほど。それぐらい攻め方、受け方、抜き方が絶妙だった。