ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
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「サッポロ」は語感が素晴らしいという (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社
「サッポロ」は語感が素晴らしいという (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「サッポロ一番」について。

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 先日、食料が何ひとつないホテルの部屋で、夜中に猛烈な空腹で目が覚めてしまい、たまたま持ち合わせていた「サッポロ一番」の袋麺を六つに割り、お湯を沸騰させた電気ポットにねじ込んで食べました。奇跡的にお湯の分量もちょうど良く、スープの濃さも完璧で、それはそれは美味しかった。近年食べたものの中で3本の指に入るぐらい。ここだけの話、お箸もフォークもなかったため、アメニティのブラシで頂きました。本来だったら泣けてくるような状況にもかかわらず、たった1袋の「サッポロ一番」がもたらしてくれた幸福感たるや。料理をしない独り身の深夜の空腹は、毎度のごとく壮絶なものですが、今回はあらゆる意味で衝撃的でした。

 ブラシに引っかかった麺を貪りながら、ふと「サッポロ一番」という商品名に想いを馳せました。今や当たり前の名前ですが、実によく出来た名前です。味はもちろんのこと、名前の語呂、響き、音数、インパクトが完璧だったからこそ、「サッポロ一番」はここまでの国民食に成り得たと言えるのではないでしょうか。

 まず「イチバン」。この言葉を口にしたくない日本人はいないと思いますが、どうやら英語圏的にもキャッチーな言葉のようで、私も「イーチバーン!」と叫ぶ英国人や米国人を数多く見てきました。英語の「ナンバーワーン」に音節や韻が近いこともあってか、「コニチワ」「サヨナラ」と並んで世界に浸透している日本語で、その延長線上にあるのが「イーチロー!」や「スーシロー!」です。

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