半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「ONに横綱たち…アスリートから刺激」
セトウチさん
怖いですねコロナウイルス。神戸の美術館で今日(1月31日)タイミングが良過ぎますが「兵庫県立横尾救急病院」展のオープニングです。病院の先生はコロナも怖いけれど、インフルエンザが猛威をふるっており、僕の場合、持病の喘息(ぜんそく)がヤバイので、絶対都心にも移動しないで下さいと言われてアトリエに自主隔離することになりました。80代になると健康管理してくれる人が必要ですね。「ハイ、そこで筆を置いて!」とか言う人が必要です。もう調子に乗るようなことはないですが、絵はついつい描きますからね。
セトウチさんの寂庵の庭の実況放送は手に取るように見えます。あんな奇麗な庭を眺めながら、居眠りしてらっしゃるセトウチさんを想像して笑っています。そんなセトウチさんから相撲の話を聞くのは初めてです。僕は、初代貴ノ花、隆の里、若島津、そして千代の富士の化粧回しのデザインをしているんですよ。だから国技館の升席(ますせき)から何度も相撲を観ました。子供の頃は照国のファンでした。今は小さい力士が大きい力士を倒す炎鵬を応援しています。
貴ノ花夫妻や元北の富士と千代の富士も家に遊びに来られました。貴ノ花夫妻はわが家に来る車の中で喧嘩(けんか)したままだったので、二人の機嫌を取る行司役をしました。千代の富士は犬(シェットランドシープドッグ)が怖くて、両手を挙げたまま玄関から入れなかったのがおかしかった。千代の富士はお笑いのテレビばかりをひとりで見てケラケラ笑っていました。僕はもっぱら北の富士親方と話ばかりしていました。
スポーツと芸術は共通することが多いと思います。王(貞治)さんや長嶋(茂雄)さんも、話が尽きることはなかったですね。王さんのお嬢さんが「父がこんなに野球の話をしたのを見るのは初めてです」とおっしゃるのを聞いて一般には知られない王さんを知りました。話が終ることがなかったです。