今年、小3の娘の書き初めの課題は『お正月』。「パパ、教えて!」と助けを求めてきた。娘は左きき。左手じゃ筆遣いは難しいけど、やってやろうじゃないか! 鬼コーチと化した私は娘の背後に陣取り、「そこ、角度つけて! 真っ直ぐに! 払いは元気よく! 太く行け! 曲がるな! もうちょっと辛抱して、そこから筆をいっぱいに使って大胆にっ!!」。学校から支給された用紙はたったの3枚。新聞紙にひたすら練習し、いざ本番。3枚書き上がる。「納得した?」。憮然とした表情の娘。「まだやりたい?」。頷く娘。よし、紙、買いに行こう! 文房具店で書き初め用紙を購入し、書く書く。途中、どうしても上手くいかず自分に腹が立ち涙を流す娘。いい涙だ! 最後の1枚。『月』の最後のハネ。「さー来い! そーだっ! はねろっ! いけるって! いけるって! さー思い切りはねてみろっ!!」……決まった。顔に墨をつけて抱き合って喜び合う父娘。「暑苦しい……」と家内が呟いた。

 提出したものが返ってきたら装丁して飾ろう。『大寒』の頃には戻ってくるかな。寒い日はなぜか筆を持ちたくなる。真冬に嗅ぐ墨汁の香りはいいもんだ。

週刊朝日  2020年1月31日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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