ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「洗剤のCM」を取り上げる。
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時代の価値観が純粋に反映されるもの。そのひとつが「洗剤」のCMです。白さ・泡立ち・手間なし・無添加・除菌効果にお洒落着洗いなど、その時々の社会のニーズや日常の理想が「洗剤」には詰まっています。
私が子供の頃(昭和50年代)一世を風靡した♪嬉しい白で~す~ブルーダ~イヤ~♪のCM。様々な公害問題に直面していた時代、『ブルーダイヤ』は「無リン」を掲げ、同じくライオンの「酵素パワーのトップ!」と両雄を張った粉洗剤です。CMの最後に流れる♪金銀パールプレゼントッ♪のフレーズを覚えている人も多いでしょう。抽選で宝飾ペンダントが当たるキャンペーンでしたが、当時「洗剤の中に金銀パールが混ざっている」と勘違いし、中身を床にブチまける主婦が続出したとか。まだ日本が駄菓子屋文化の上に成り立っていた頃の話です。ちなみに現在も『消臭ブルーダイヤ』として販売されています。「金銀パールプレゼントキャンペーン」は、その後ミキモトや田崎真珠といった大型ブランドとのコラボを展開し、最終的には「氷川きよしモデル」という頂点を極め、2008年にその幕を閉じました。まさに昭和後期から平成にかけての「日本の洗濯事情と主婦市場」の変遷です。
「無リン時代」を経て日本が本格的に潤っていく中、常に洗剤も進化し続けてきました。液体洗剤やコンパクト洗剤の台頭、漂白剤入り、植物由来、ナチュラルハーブにUVカット。「地球にやさしく! でもシャツは白く!」。世の主婦たちが求める終わりなき願いは、常に洗剤とともにあったと言えるでしょう。
そして21世紀。洗濯は主婦だけの仕事ではなくなり、共働きや家事分担、ひいては未婚や離婚の増加も相まって、男たちとてせっせと自分のシャツや下着を洗わなくては生きていけない時代になりました。そこで登場した新たな必須項目は、ずばり「消臭」です。今や洗剤が「服の汚れを落とす」のは当たり前。それだけでなく「服の臭いを消す」ことも絶対的任務。中でも「男臭」や「オヤジ臭」の類は特に嫌われ、かつて聖子ちゃんや宇多田ヒカルが「タバコの匂いのシャツにそっと♪」とか「最後のキスはタバコのflavorがした♪」と歌っていたことなど昔の話です。