仲佐医師によると、WHOが提供し、試験的に投与しているという。有効性は98%。ちなみにインフルエンザワクチンの有効率は報告があるもので60%程度(2015-16年シーズンで6歳未満を対象にした調査)。単純には比較できないが、そう考えるとかなり高い。

 一方、エボラウイルス病の治療薬は、キブ州周辺に10カ所あるエボラ治療センターでのみ使用されており、死亡率は66・7%から34%へと減少したことが分かっている。

 ワクチンや治療薬による新たな試みは始まったものの、いまだ感染者、死亡者数は増え続け、終息の見込みはたっていない。なぜなのか。仲佐医師は言う。

「理由はいろいろありますが、大きく二つあると考えています。一つは、この治療を行うセンターが限られているため、患者全員に薬を投与することができない。もう一つは、地域の一般病院で死亡してから感染が分かるケースも多く、家族や接触者を特定できないため、ワクチンが十分に摂取できない、ということです」

 キブ州は紛争地域であり、治安が悪いことも挙げられる。実際、外務省から「退去勧告(レベル4)」が出ている地域であり、派遣された仲佐医師らでも現地に入ることは止められている。最先端の医療が整っても、それを十分に発揮できる体制や環境がなければ、感染は止められないということなのだろう。

 仲佐医師らは、現地の医療スタッフに対し、感染予防や、キンシャサを訪れる人への検疫強化(体温を測る、症状があるかどうか聞き取るなど)のトレーニングを行っている。

 感染の広がりは抑えられるのだろうか―。

「今回の流行で最もおそれているのは、首都キンシャサでの流行です。人の流通が多ければコントロールがつかなくなります」(仲佐医師)

 怖いのは日本への影響だ。来年には東京オリンピック・パラリンピックも控えている。その点について仲佐医師は「WHOの症例は、あくまで現地に限定されている」とする。だが、ルワンダと隣接する中規模都市のゴマでも感染者が見つかっている。

「ゴマで拡大し、首都のキンシャサでの流行、もしくは隣国のウガンダやルワンダにおける流行が始まらない限り、影響はないといってよいと思います」(同)

※Public Health Emergency of International Concernの略で、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」のこと。

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日オンライン限定記事