

多くの抗議や脅迫によって中止された「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」。ジャーナリストの田原総一朗氏は主催者の意図を推測する。
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愛知県で2010年から3年ごとに開催されている国際芸術祭が、4回目となる今回は8月1日から10月14日まで75日間開催されることになっている。今回の芸術監督は、ジャーナリストの津田大介氏である。そして津田氏の強い希望で、「表現の不自由展・その後」という企画展が開催されたが、3日間で中止に追い込まれ、これが大問題になっている。
この企画展の作品選択の基準は、「過去に展示不許可となった作品」で、たとえば、慰安婦を表現した少女像や白川昌生氏の「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」、昭和天皇の肖像をモチーフにした、大浦信行氏の版画「遠近を抱えて」などがある。
8月6日の毎日新聞によれば、「群馬県は同県高崎市の県立公園にある朝鮮人強制連行追悼碑について14年、『政治的に利用されている』として碑を管理する市民団体に撤去を要求。現在も東京高裁で係争中だ。(中略)『遠近を抱えて』は1986年に富山県立近代美術館(当時)で展示され、県議らから抗議された。県は93年に作品を掲載した図録を焼却処分し、批判が起きた」ということだ。いずれも問題のある作品ばかりである。
津田氏は「美術館などで展示不許可になった作品を見せることで、『表現の自由』を巡るさまざまな力学を伝え、議論を促す狙いがあった」と説明している。
ところが、実行委員会事務局などに、開幕以後3日間で3千件近い抗議の電話やファクス、メールがあり、中には「撤去しなければ、ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」というファクスもあったという。このために、大村秀章県知事と津田氏が協議して、来場客の安全や芸術祭全体への影響を考慮して、3日夕方に中止を発表したのだということだ。
ところで、2日に会場を視察した河村たかし名古屋市長が、大村知事に「日本国民の心を踏みにじる行為であり許されない」とする抗議文を出し、展示中止を求めたようだ。実は河村市長は、実行委員会の会長代行を務めているのである。さらに、菅義偉官房長官も、文化庁の補助金約7800万円の交付について、「決定にあたっては事実関係を確認して適切に対応したい」との姿勢を示した。実行委員会に対する牽制である。