「うーん……、くるりの音楽とクラシックはまったく別のつくりかたです。ただ、くるりのエッセンスを使うくらいはあるかな。フレンチのソースに和の鰹出汁を隠し味に微量加える程度ですけれど」
アルバム『岸田繁「交響曲第二番」初演』はタイトルにも入っている“初演”であることが特徴。曲が生まれて、人前でほぼ演奏されたことのない曲を披露する緊張感がある。
「初演だからこそのきらめきは強く感じていただけるんじゃないでしょうか。フレッシュなフルーツをさくっと切った断面のような、あるいは蕾から開きかけている花びらのような、そういう魅力はあると思いますよ。僕自身、ほかのアーティストの初演のライヴをオーディエンスとして聴くとき、粗削りだからこその魅力を感じるケースは少なくありません。初めてだからこその緊張感があり、2度目以降とは違うスイッチが入っているので」
音楽は生ものなのだ。
「ベートーヴェンの、あるいはビートルズの研究者は世界中にいますよね。でも、どんなに分析しても、ベートーヴェンやレノン&マッカートニーのような曲をつくれるわけではない。僕は音楽というのは“瞬発力”だと思っているんです。作り手の瞬発力と聴き手の瞬発力で心が動く。バッハが理詰めで作曲したのかどうかは知りません。ジミ・ヘンドリックスが理詰めでギターを鳴らしたのかは知りません。でも、反射神経による何かが働いていたような気がしています。10曲くらい入っているレコードで、僕はシングルカットされた曲よりも、その前後やB面の1曲目の曲が僕は好き。すっぴんだからです。音楽が化粧をしていないし、着飾ってもいない。シングルナンバーにはいろいろなスタッフの意見が入っていて、本人の気負いも感じられます。それよりも、あるがままの曲が好きです。僕自身、技術だけで作曲した曲は、なんだかつまらないんですよ。だから、捨ててしまいます。メッキがはがれる気がする。計算しないでつくったほうがいい。そういう魅力、『岸田繁「交響曲第二番」初演』からも感じ取っていただきたいですね」
(神舘和典)
※週刊朝日オンライン限定記事