ノンフィクション作家の足立倫行氏が選んだ“今週の一冊”は『古代氏族の研究(13) 天皇氏族 天孫族の来た道』(宝賀寿男著、青垣出版 2000円※税別)。
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日本国の成立は天皇家の歴史と切り離せない。従って、代替わりを機に天皇家のルーツを振り返ることにはそれなりの意味があるはずだ。
多くの説があるが、氏族研究に基づいた本書の結論をまず示す。
天皇家の父系源流は殷王朝の流れを汲むツングース系で、鳥トーテミズム・太陽神信仰・鍛冶技術などを持ち、平壌あたりの箕子(きし)朝鮮、半島南部の洛東江流域を経て、紀元1世紀前半頃に九州北部に渡来した。
『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』や『斎部宿祢本系帳(いんべのすくねほんけいちょう)』など古今の系図類を参考にすると、始祖・五十猛(いたける)神(スサノヲに相当)以降の動向も追うことができる。
松浦半島から筑後川中流域の御井(みい)郡(福岡県久留米市)に移り、そこが高天原(邪馬台国の前身)。4代目のニニギは筑前怡土(いと)郡(福岡県糸島市)に移り支分国を作る(天孫降臨)。その孫・神武は庶子だったので、2世紀後半に新天地を求めて小部隊と大和へ向かう(神武東征)……。
と、ここまで書くと「待った」の声が聞こえてきそうだ。「左翼なのか」とか、「皇国史観か」とか。
著者も断っている通り、この仮説は左右のイデオロギーとは無縁だ。
ついでに言えば、現代の国家や政治とも直接関係はない。古代の東アジアで多数の王朝が興亡盛衰していた頃の倭地(日本)の状況を、あくまで歴史検証の立場で合理的・総合的に再構成しようとしたものだ。
私が著者の説に注目したのは、取材で伊都(いと)国(糸島市)を訪れたからだ。そこには日の出の方角に日向(ひなた)峠や日向山、クジフル山があった。
峠の向こうの福岡市西区には、吉武高木(よしたけたかぎ)遺跡があり、その中の「最古の王墓」から日本で最初の三種の神器(鏡・剣・玉)が出土していた。