累計で300万部以上を売り上げ、映画やテレビドラマにもなったベストセラー「積木くずし」の著者である、俳優の穂積隆信さん(享年87)が胆のう癌でなくなって1週間あまり。その晩年とは……。
「僕は自殺しようと思っているんだよ」
意を決したように、穂積隆信さんはこう切り出した。渋谷駅近くの喫茶店。今年2月27日のことだった。
その直前の2月24、25の両日、穂積さんは劇団「はーとふる・はんど」(主宰/山辺ユリコ)の手話による芝居とダンスの公演「人生のおみやげ」(監修/石井ふく子、脚本/菊村禮)に、遊園地の老職員役で出演。
主演の小林綾子さんらを相手に熱演した。この作品では、自殺しようとする主人公を思いとどまらせる重要な役回りだった。筆者は取材を通じて2年前に穂積さんと知り合い、以来、たびたび相談相手となった。「人生のおみやげ」も観劇し、感動したばかりだった。それなのに……。
「もうお金がなくてね。来月分の生活費と7万5千円の家賃はなんとかなる。でも4月以降は収入がなくて、にっちもさっちもいかないんだ」
穂積さんは、ベストセラー「積木くずし ―親と子の二百日戦争」(1982年 桐原書店)の印税収入が3億円を超えたといわれ、当時、俳優業はもとより教育評論家としての所得は億単位。だが、詐欺事件に巻き込まれ、家族は崩壊。離婚に至る過程ですべてを無くしていた。
しかも所得税の滞納による延滞金を700万円以上抱えており、預金は10万円に満たないと漏らした。
「延滞金は確定申告の還付金で少しずつ支払っているんだけど、収入は先細り。昨年は舞台と経営者向け情報誌の対談の仕事で300万円ほどの収入があったものの、今はまだ何も決まっていないんだ」
年金があるのでは?
「お恥ずかしい話、年金はゼロ。もらってないよ。『積木くずし』が売れに売れて、俳優だけでなく教育評論家としても全国を飛び回っていたでしょ。それで仕事以外のことは全部他人任せにしていたら、そいつが仕事をせずにずっと未納して着服していたんだ。気が付いた時には資格喪失で手遅れ。だからいっそのこと死んでしまったほうが楽なんじゃないかと……」