「カラス族」と呼ばれる黒服の男にまじり、街頭で客引きをするキャバ嬢たち (c)朝日新聞社
「カラス族」と呼ばれる黒服の男にまじり、街頭で客引きをするキャバ嬢たち (c)朝日新聞社
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官能小説で知られた作家の故・団鬼六さんもキャバクラに通っていた (c)朝日新聞社
官能小説で知られた作家の故・団鬼六さんもキャバクラに通っていた (c)朝日新聞社

 社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく。今回は「キャバクラ」。1980年代はじめに到来した「女子大生ブーム」。これに呼応するかのように、夜の世界を席巻したのがキャバクラだった。男の心理を見事に見抜いた商売だった。

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「キャバクラ」とは何か。風俗ビジネスの開業の仕方や運営のノウハウに関する実用書を読んでいたら、「接待飲食営業という分野に属する」とあった。営業形態としてはそうなのかもしれないが、多くの男たちを魅了する「夜の世界の華」「不夜城」と言った方が分かりやすいだろう。人気の理由について、同書はこんな風に説明していた。

<ホステスは水商売未経験のアルバイトが多く、接客が素人っぽいこと>

 これだけだと、かつて本欄で紹介したアルバイトサロン(通称アルサロ)と変わらないではないか。

「いやいや、キャバクラはね、もっとゴージャスなんだよ。ボリューム感のある髪形が特徴でね……」

 今も昔もキャバクラに通い続けている知人が、熱心に持論を聞かせてくれた。

 それでもまだよく分からない。「キャバクラ」という言葉の語源から考察してみよう。

 よく言われるのが、フランス語由来の「キャバレー」(cabaret)と、英語由来の「クラブ」(club)を合体させた造語。要は、キャバレーのような明朗会計であり、高級クラブのようなゴージャスな雰囲気を味わえるということである。あの広辞苑も、キャバクラについて「『キャバ』はキャバレー、『クラ』はクラブの略。ホステスが客と同席して接待する飲食店」と書いている。

 だが別の説がある。「キャンパス」と「クラブ」を一緒にした「キャンパスクラブ」の略語という説だ。

「フジテレビで深夜に生放送されていた『オールナイトフジ』を思い出してください。あれを機に女子大生ブームや素人ブームが盛り上がり、それがキャンパスクラブになったんですよ」

 そう語るのは『戦後「性」の日本史』などの著作がある風俗ライター伊藤裕作さん(68)である。

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