「北海道出身の妻と九州出身の夫が東京で暮らす。両家の地元にある墓をどうするか」「夫に先立たれて子もいない。私は永代供養墓に入るつもりだけど、先祖の墓はどうしよう」──。墓をめぐっては、それぞれの事情による多種多様な問題が渦巻いている。
「墓じまい」という言葉を耳にしたこともあるだろう。正式には「改葬」という。墓石の下の骨壺を取り出し、別の場所に移すことだ。
少子高齢化で地方の人口が減る影響もあり、改葬の件数は増え続けている。厚生労働省の衛生行政報告例によると、2016年度で約9万5千件。5年前に比べ3割ほど増えた。今後もさらに増える見込みだ。
ただ、家財道具を「断捨離」するように自由気ままにできるわけではない。
四国で一人暮らしをする60代女性はこう話す。
「東京で暮らす子ども3人はほとんど墓参りに来ない。いつまで私が一人で管理できるのか健康面で不安です。墓じまいも考えてみたけれど、すぐには決心できません」
墓には一家一族の歴史があるだけに悩ましい。
佐々木悦子・日本エンディングサポート協会理事長は、その決心をあまり先送りしないほうがいいという。
「多くの人がなんとかしたいと考えつつ、自分の代でお墓をたたんでしまってはご先祖さまに申し訳がないと思っています。墓じまいには手間と時間がかかり、精神的にも体力的にも大きな負担になります。でも、先送りするともっと深刻になる。親が認知症になれば、子がお墓に関することを聞くことさえできません。遅くとも70代のうちにやっておくべきでしょう」
先の60代女性の墓地では、無縁墓として撤去されたケースもあった。
見守っていた人が亡くなったり、遠くに引っ越したりして誰も墓参りに行かなくなると、いずれは「無縁墓」になる。墓地の管理者は、墓地埋葬法の定めに沿って持ち主に申し出るよう立て札などで求める。1年以内に連絡がないと、墓を強制的に処分することもある。数年ぶりに来たら墓そのものがなくなっていた、なんてこともあり得るのだ。
第一生命経済研究所主席研究員の小谷みどりさんもこう話す。
「墓じまいをする適齢期は75歳でしょう。子が高齢化して頼れなくなることも想定すれば、75~80歳のうちに墓をどうするか決めておくべきです」
(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2018年8月31日号より抜粋