
1打席・1振りに賭けた夏が終わった。
「悔しい。悔しいの一言です」
ロッカールームでうつむきながら花咲徳栄の島崎大輔君はこう言葉を絞り出した。

代打としてチャンスがまわってきたのは、8回裏、4点ビハインドの2死1、2塁のチャンスの場面だった。
「『島崎行くぞ』と監督から言われて、『よっしゃ』と思いました。心の準備はできていました」
花咲徳栄は序盤から厳しい戦いを強いられた。4回途中で一挙6点を奪われ、プロ注目のエース・野村佑希投手がKOされた。しかし、花咲徳栄は驚異的な追い上げを見せた。6回に1点、7回に2点を返し、その差は4点。続く、8回も連打で2死1、2塁のチャンスをつくった。
これまで好リリーフを続けていた花咲徳栄の中田優斗投手に、花咲徳栄の岩井隆監督は、代打を送る決断をした。
花咲徳栄アルプススタンドは、猛烈な追い上げに「まだいけるぞ」「勝てるぞ」と盛り上がりを見せていた。

「打ったのは5球目でした」
島崎君が捉えた打球は、サードのグラブにライナーで収まった。
「左バッターの自分の役割は、逆方向に強い打球を打つこと。理想通りのバッティングはできたのですが、サードに取られてしまった。夢の舞台で、楽しみながら打席に入れたと思いますが…。やっぱり悔しいです」
8回は得点できず、攻撃は9回を残すのみとなった。
島崎君は、昨年から上級生たちとともに切磋琢磨してきた。夏の県大会にもベンチ入りメンバーとして戦っていたが、20人入れる県大会から18人に絞られる甲子園メンバーで落選し、昨年の優勝メンバーに名を連ねることができなかった。
「メンバーから外れて、サポーメンバーとして甲子園に入りました。間近で優勝を見て、来年は絶対にこの場に立つんだと決意しました」
しかし、新チームに入り、結果が出ず、「高校野球の中で一番苦しかった」という日々が続いた。