――夫は03年11月に引退。自身の育った、先代武蔵川部屋が名を変えた藤島部屋で“部屋付親方”に。夫37歳、妻35歳になる直前に、ようやくゴールインする。
妻:交際してから「子どもが欲しいです」と切実に言っていたんですけど……。
夫:問題は俺。のんびりしていたからな。相撲部屋に15年いて、付け人経験もあるから洗濯でもなんでもできちゃうんだよ。
妻:現役人生も終わりを迎えるような時期だったし、「このタイミングで結婚すると、奥さんが絶対悪く言われるから難しい」と。
夫:スポーツ選手の妻って、どうしてもそう言われる。
妻:7年くらい付き合ったつもりなんだけど、起点がよくわからない(笑)。
夫:プロポーズは「一緒にスモウ」。相撲と住もうに掛けて言ったのネ(笑)。
妻:やっと結婚できて、すごくうれしかったなぁ。
夫:ふたりで堂々と出掛けられるようになったから。
妻:結婚してから私は仕事を辞めました。自分がいっぱいいっぱいになっちゃったんです。不妊治療もしていて、夜11時ごろにフラの教室から帰って、土日も家を空ける。親方が糖尿病だとわかり、「なんとかしなきゃ」と思ったんです。親方は若い力士を連れて外に食事に行く毎日で、「妻として支えてあげられていないな」と。
夫:(妻が仕事を辞めるのは)横綱が抜けるようなものだったろ? 土俵入りする人がいなくなった(笑)。
妻:周りはみんな女性だから結婚や妊娠について理解はあったけど、やっぱり迷惑も掛けちゃいましたね。
――13年4月、武蔵川部屋として独立。相撲未経験の弟子たち4人との、新たなスタートだった。
妻:今、親方が若い力士を見ていてもどかしく思ったり、教えるのに時間がかかったりするというのはよくわかる。私も教える立場にいたので。それに同性同士ってどうしても厳しくなる。かつて私がフラを指導する姿が厳しく見えたのか、親方がよく「いやいや、上手になったよ」と生徒を褒めていたことがあるのよね。
夫:だってこの人、すごい厳しかったもん(笑)。
妻:それは大会前の追い込みの時とかでしょう?
夫:俺の話をわかりやすく、うまくまとめるのは、おかみだよ。男の世界だから俺が厳しくあれこれ言うでしょ。そのあとをおかみがフォローしてくれる。