

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「天才」。
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『天才』なんて身の回りにそんなにいない。ましてや、自分が天才なわけないし、なれるとも思わない。40過ぎて今から天才になる……なんてことはないからな。もはや『天才』を見る側として生きていこうと思う。私が中高生の頃。クラスの大半が持っていた『ジーニアス英和辞典』。英語の先生が「買うならジーニアス!」とやたらジーニアス推しだった。リベートかなんかもらってたのかな。私には姉の使わなくなった辞書があったのだが、やはり周りに流されるようにジーニアスを購入。音の響きも鋭くて、カッコいいじゃないか「ジーニアス」。光沢のあるピカピカのケースに入ったジーニアスは持ってるだけで心強かった。
授業中、成績のいいヤツも勉強できないヤツも、みんな『ジーニアス』を開いて英単語を調べている。先生は「ジーニアスのページが手垢で真っ黒になるくらいジーニアスを引きなさい。それが血となり肉となる! 絶えず反復することがジーニアスへの近道ですっ!」と言う。
使い始めてしばらく経ってから、そもそも「ジーニアス」ってなんなんだ?という疑問。遅すぎる。意味も知らずに使うのもなんなので、「genius」を『ジーニアス英和辞典』で調べた。
『天才』とある。「……天才かぁ……」